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肆 安堵 ページ4

少女は強かった。
判断能力も悪くないし、女性とは思えないほど攻撃的だと、杏寿郎は少女を評価した。現に、力では劣るものの、純粋な速さでは杏寿郎を凌ぐほど。
一瞬の気の緩みも許されない。
惜しむべきは、無駄な動きの多さ。それに伴い、ただでさえ少ないスタミナをすぐに消費してしまう。

「まだ……闘える」

独り言のように呟く少女の目には、何かを訴えかけているように見えた。私は弱くない、と呪詛のように唱える彼女の姿は、側から見れば痛々しい。
ほんの一瞬だけ、杏寿郎の集中力がきれた。目の前で少女が突然涙を流せば、仕方のないことだ。

「……見捨てないで」

とうとうその場に膝から崩れ落ち、涙を流す少女の姿は、年相応のものだった。
何かに怯えて泣く少女を木刀で叩けるほど、杏寿郎は無慈悲にはなれない。

「……泣くな」

むしろ、少女の側まで歩み寄る始末。それでも泣き止まない少女に、杏寿郎は戸惑いながら、そっと抱きしめてやる。
独りじゃない、誰もキミを捨てないと、少女の耳元で優しく囁く。
そんな杏寿郎を、少女は抱き返そうと両手を後ろに回し……杏寿郎の背に貼り付けた皿を掴み取った。

「……あ」

そのときにようやく、杏寿郎は少女の狙いに気付いた。A家流の決闘法は、相手の背中に貼り付けた皿を奪い取ること。真正面では勝てないと悟った少女は、涙で杏寿郎の隙をついたのだ。

「かかったわね」

杏寿郎の腕の中で、少女は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。状態が状態なだけに、何とも言えない沈黙が流れる。

「杏寿郎くんもかかったかぁ。Aの嘘泣き」
「その口ぶりだとお前も引っかかったんだな」

遠くで見守っていた少女の父親の発言に、槇寿郎が呆れたようにため息をついている。事実、彼はほぼ毎日のように、稽古の途中に娘の嘘泣きに引っかかっている。しかし、学ばない。

「なんだ、嘘泣きか……良かった」

どこか安堵の表情で笑う杏寿郎に、未だ抱きしめられたままのAは、いつまで抱きついてんの!と乱暴に突き放すと、顔も合わせずに、逃げるように屋敷の中へと戻って行ってしまった。

「……さらに嫌われたかもしれない」

表情こそピクリとも変わっていないが、そんな言葉をこぼす杏寿郎に、少女の父は、大丈夫だといやらしい笑みを浮かべている。
その晩、少女とその父は煉獄家で一晩過ごしたのだが、少女は最後まで杏寿郎と言葉を交わすことはなかった。その代わり、少女の父が二日酔いをなったらしい。

伍 決闘の意味→←参 強者



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squid(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年5月2日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
琥珀 - 完結おめでとうございます!続編楽しみにしてます。 (2019年5月2日 5時) (レス) id: d2016535f2 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 時飴さん» コメントありがとうございます!こちらこそ、読み返してくださるほど楽しんでいただけて何よりです!この小説を書けて良かった……! (2019年5月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
時飴 - あぁ、完結か でもとても楽しい2、3日でした。外伝もこの先楽しみです!何度も読み返したくなる夢小説は久々です!ありがとうございました! (2019年5月1日 19時) (レス) id: 2a7a7ec279 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - 雪菜さん» コメントありがとうございます!読み返していただけるなんて光栄です!ご期待に添えられるよう頑張ります! (2019年5月1日 14時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年3月31日 19時

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