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早春の花が咲く頃 ページ24

竈門 炭治郎は1人、人里離れた山奥に足を進めた。
鬼を連れた鬼殺の剣士など、後にも先にも彼1人だろう。そして、禰豆子という鬼を人間に戻すため、彼は今も戦い続けている。

「あ、炭治郎くん」
「Aさん!?」

来てくれたんですか、と嬉しそうに頬を緩める女性は、誰かを呼びに、ある場所へと向かう。
一体何が起こっているのか分からなかったが、炭治郎もその後に続く。
彼らが辿り着いたのは、小さな広場だ。
中央には大きなミモザの木があり、その下で、燃えるような髪色をした偉丈夫が、木刀を手に素振りをしていた。

「杏寿郎。炭治郎くんたちが来てくれましたよ」
「む、溝口少年か!久しいな!」
「竈門です!なんで煉獄さんまで……!」

なぜ故人となった彼らがここにいるのか。
彼らは、本当は生きていたのか。そんなことはあるはずがない。
彼らはもう、1年以上前に亡くなっているのだ。

「また腕を上げたな、竈門少年!」

炭治郎の様子などお構いなしに、杏寿郎は快活に笑い、彼の肩を軽く叩いた。
杏寿郎のペースに乗せられてしまったら最後、彼に質問する権利はない。したとしても、杏寿郎は答えないだろう。
突然、稽古をしよう!と言い出した杏寿郎に、炭治郎は何を聞こうとしていたのかも忘れ、手渡された木刀を振るう。

「怪我はしないでくださいね」

ミモザの木にもたれ掛かる、鬼であったはずの彼女には、ツノがない。鋭い爪も牙も、どこにもない。
そこには、ただ美しい笑みを浮かべる少女がいた。
ミモザの花が風に揺れ、彼らの声を空高くまで届けようとサラサラと音を立てた。

「________い!」
「_____おい、起きろ!」

頭上から聞こえる声に、炭治郎は眼を覚ます。
そこには、2人の親友の姿に、ようやく、炭治郎は自身が居眠りをしていたことに気が付いた。

「……」

夢だったのか、と炭治郎が天を仰ぐ。
杏寿郎が死に、後を追うようにAも亡くなった。
生きろ。そう書かれた遺書を手に、Aは最期の時まで生きた。
炭治郎は、彼らが天国で出会うのを願った。
彼らが亡くなったのは、もう随分と昔。Aが亡くなったのは、ミモザの、早春の花が咲く頃だった。
今は、もう雪の降り始める頃。

「あれ……炭治郎、そんな木刀持ってたか?」
「え?」

善逸に指摘され、炭治郎は、自分が木刀を手にしていたことに気が付いた。
その木刀からは、優しいミモザの匂いがした。
雪の降り始める頃、ある場所の、ある木には、ミモザの花が咲いていた。

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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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