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玖 返却 ページ10

その日、わたしは倒れた。何をしていたのかというと、ただ鍔を作っていただけだ。
気が付いたときには、わたしは自室のベッドで横になっていた。ベッドの傍らで、母が泣きそうな顔でわたしを見ていたときは、本当に驚いた。
3日間、わたしは眠ったままだったらしい。煉獄さんも、任務を済ませてすぐに見舞いに来てくれたらしい。

「あのぉ……」
「ダメよ」

ほんの少し動こうとした瞬間、母から鋭い視線を向けられた。病人は休んでいなさいとのこと。
もう身体は問題ないのだが、席が止まらない。アレルギーか何かだろうか。
考えても仕方がないため、わたしは諦めて、鍔のデザインを考えることにした。

わたしが母から部屋の出入りを許可されたのは、4日目のことだった。
知人からのお見舞いの品を多く受け取ってしまい、そのほとんどは、煉獄さんからの物だった。
7日ぶりに手紙を書くと、10分後には手紙の返事が届いたのには、大変驚かされた。もう大丈夫か、医者には行ったか、などなど、わたしを気遣うような内容だった。
医者からは、ただの風邪ではないかと言われた。慢性気管支炎というもので、しばらくは咳が止まらないらしい。

「それで、抜け出して良かったのか?」
「引きこもっていた方が、悪化すると思います」

母には内緒で、わたし煉獄さんと会っていた。
外に出たからか、咳は幾分かマシになっている。たまには散歩をしてみるのもいいかもしれない。

「そうだ、これを返さなければな」

煉獄さんに渡されたのは、わたしが最初に作った、鍔と言う名の鉄の塊だった。これを見ると、わたしも成長したなぁと実感する。

「まだ、持っていてくださったんですね」
「当たり前だ!」

相変わらずの目力に、顔がにやけてしまわないよう必死で抑える。もう随分と昔の約束なのに、まだ守ってくれていたなど、律義な人だ。
鍔を受け取ろうとしたところで、手が止まった。この鍔を受け取ってしまったら、もう煉獄さんと会えないのではないかと、不安に駆られたから。

「どうした?」

わたしの顔を、不思議そうに覗き込む煉獄さんに、なんでもありません、と笑顔を向ける。
何も永遠の別れをするわけではない。それに、わたしと煉獄さんは、あくまで職人と依頼主の関係だ。それ以上でも以下でもない。
なぜ、こんなにも苦しいのだろうか。理由なんて分からないのに、側にいたいと願ってしまう。
これではまるで……。
その時、背後から凄まじ音が鳴り響いた。

拾 名前→←捌 雪



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squid(プロフ) - 愛羅さん» 返信が遅れてすみません!感動系は少々苦手なのですが、そのように思っていただけたなら幸いです!完読ありがとうございます! (2019年7月1日 6時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
愛羅(プロフ) - 感動しました!涙が止まりません…( ; ; ) (2019年7月1日 0時) (レス) id: 83407bc1eb (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - ぶるこ。さん» コメントありがとうございます!素敵な夢だなんてとんでもないです。完読していただきありがとうございます。 (2019年6月17日 7時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
ぶるこ。 - 涙ぼろぼろです。素敵な夢をありがとうございます…。 (2019年6月17日 2時) (レス) id: 48aba5c9ee (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - キノさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです。 (2019年6月14日 15時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年5月11日 17時

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