【鬼滅の刃】太陽の下

参 ある鬼の話 ページ3

忌まわしい花札の耳飾りが視界に入る。その直後に、鬼は頸の辺りに激痛が走るのを感じた。
自分は死ぬのかと、鬼は悟る。あと少しで、鬼は千年以上も追い続けていた、日光への耐性を手にすることができた。完璧な存在になれるはずだった。
頭だけになった状態で、鬼は日の出を見た。
太陽の光に、鬼の体は耐えられない。焼けるように消滅してしまうのだ。
頸を斬られた鬼は、消滅する以外道はない。このまま日光に浴びようが浴びなかろうが、結末は同じ。

「ここで終わるのか」

ふと、鬼は人間の頃を思い出す。
なぜ鬼は、太陽の克服に執着したのか。それは完璧な存在になるためだ。死も太陽も、何に怯えることもない完全なる生物に。
だが、それはただの口実に過ぎなかった。鬼は……男は認められなかった。鬼になってもなお、たった１人の亡き女を想っているなど。

『そんなところで寝てないで、日向に当たってみてはどうです？』

いつか共に、太陽の下を歩こうと誓った人。男よりも先に、あの世に旅立った人。その事実を、男は千年が経った今でも認められずにいた。
なぜ鬼は、太陽を求めたのか。多くの犠牲を払い、それでも決して後に引くことなどしなかった男は、何を思って、その大罪を犯したのか。永遠に許されることのない罪を背負ってまで、男は何を望んだのか。
ゆっくりと、太陽が地上から顔を出した。
温かな白い光が、鬼の肌を焼く。生きたまま焼かれるような激痛の中に、男は確かに温もりを感じた。

「……A」

消えつつある男の前に、１人の女が立っていた。
悲しそうに笑って、けれど男が名前を呼ぶと、太陽のように微笑んだ。
女は男の元で膝を曲げ、すっと手を差し伸べる。

『一緒に逝きましょう』

あなたの罪は、私も共に償うから。
千年以上も昔、男の前から突然姿を消したその女の手を、男は吸い寄せられるようにして、手を握った。崩壊しつつある、頭のない身体で。
____嗚呼、私はお前を探していたのか。いつか太陽の下を共に歩くと誓ったお前を、私は探していたのか。
いつの間にか忘れていた事実に、男は笑った。鬼であった頃は浮かべたことなどないであろう、傲慢ながらも優しい笑みを。

『やっと、会えましたね』

かつて願った太陽の下で、鬼、鬼舞辻 無惨は完全に消滅した。彼に味方するものなどいない。しかし、例え世界中が敵になったとしても、男を最期まで待ち望んだ女がいた。
名を、飛輪 A。太陽のような笑みが特徴的な、温かな女であった。

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