検索窓
今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:71,928 hit

外伝ノ拾参 ページ36

錆兎がAの指にはめたその指輪。花見の夜、錆兎が、Aを連れ込んだ店でバレないようにこっそりと買ったものだが、それを手渡すつもりは微塵もなかった。気持ちが晴れれば、海にでも投げ捨てるつもりでいたのだ。

「さび……と……」

目の前の鬼は、縦に裂けた瞳孔を揺らしてその瞳を濡らす。頬を伝い雨のように地面を濡らすのソレに、彼女は気付いていない。ただ、錆兎が頬に触れても抵抗もせず、バカだよと罵倒の言葉を並べる。何度も何度も、延々と。

「そんな俺の側にいるお前も、俺以上に馬鹿だな」

今度は爪を食い込ませることなく、しっかりと錆兎の背中に手を回して抱きつく。それを錆兎は僅かに勢いに負けながらも抱きとめる。産まれたばかりの赤子のように声を上げて泣く彼女を、ぎこちない手で優しく撫でる。
彼らを優しく包み込むように、春にしては珍しい白い雪が軽やかに地に落ちる。その雪が、唇を重ねる2人を静かに隠した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

雪が降るほど凍える空気と共に彼らは現れた。凍てつく風に、口から吐き出す息が白く濁り、人間を貪る鬼はその影に目を凝らす。
いつ以来か、その鬼は真冬の夜の恐怖心を思い出した。寒さに全身の毛が逆立つのを感じて、後ろに後ずさる。

【水雪の呼吸 参ノ型 斑舞い】

パリ。氷の割れるような音と共に、鬼は冷たい何かが頸に触れたように感じた。側を横切る特徴的な宍色と、回る視界。その鬼が最後に見たのは、満点の星空と、チェシャ猫の顔が見えそうなほど綺麗な三日月だった。

朽ちていく鬼の骸を見下ろして、錆兎は氷をまとった刀を鞘に収める。剣先が鞘に触れた途端、陽に照らされた雪のように溶けていく。音もなく静かに、最初から何もなかったかのように、跡形もなく。

「こっちは終わったよ、錆兎」

西側からやってきたAは、牙を見せていつものように和かな笑顔を向ける。その手で、はめられた銀の指輪が誇らしげに煌いている。

「ああ。帰るか」

さり気なく自身の手を握りしめる錆兎に、Aは不満げに眉間にしわを寄せる。流石にここでは迷子にならないと抗議するA。だが、錆兎は首を僅かにかしげる。手を繋ぐ理由を、彼自身もよく分かっていないらしい。

「……お前がどこにも行かないように」

ほんの少し前よりも可愛らしい我儘の増えた彼に、Aはその言葉の意味を知って紅潮し、けれど言うまいと口を閉ざし、仲間の待つ邸への道を進む。

____錆兎、それは独占欲って言うんだよ

あとがき→←外伝ノ拾弐



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (132 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
81人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 錆兎 , 女主
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。