外伝ノ漆 ページ30
錆兎は鬼殺隊の柱では有名だ。責任感が強く実力もある。そして言葉足らずな水柱の翻訳者としても一役買っている。
「A、もう夜だぞ」
「うん。たぶんあっち」
そんな錆兎だからだろう。話を聞かない幼馴染を放ってはおけないのは。
"桃鬼桜"を探すため、地図を頼りに街を歩き、ここまでくればAでも分かるだろうと地図を辿らせてみたところ、右で曲がるべきところを左に曲がるという致命的ミスを繰り返し、とうとう2人揃って道に迷った。
Aの方向音痴は次元が違ったようである。
「錆兎、あの木じゃない?」
偶然、本当に偶然迷い込んだ細道の先で、錆兎たちは小さな広場を見つけた。その中央で、紫混じりの桃色の光を宿す奇妙な桜の木。その下に、苔の生えた小さな祠が鎮座している。
時刻は既に子の刻になったばかり。時間的にも丁度いいだろうと、錆兎とAは祠の前にしゃがみ込み手を合わせる。
「錆兎は願い事、何にしたの?」
「……いつか鬼殺隊が必要なくなるように。Aは?」
「長生きできますように」
身も蓋もない。こういう時はもう少し夢のある願い語があってもいいだろうに。
Aは冗談だよ、と口元に手を当ててコロコロと笑った。昔と何も変わらない、あどけない表情で、Aは鎹鴉に手を伸ばす。仲間に連絡を取るためなのだろう。
夜の黒に紛れて消えていく鴉を見届けた2人の間に、長い沈黙が流れる。話すことがないというわけではないし、仲が悪いというわけでもない。だって彼らは、昔からの友人だから。
_______いつからだろうか、彼らの会話が続かなくなったのは。いつからだろうか、目が合うたびに気まずさを笑って誤魔化すようになったのは。いつからだろうか、相手の幸せを願えなくなったのは。
「……錆兎」
長い沈黙を破ったのは、地面からはみ出た桜の木の根に腰掛けて空を見上げるAであった。錆兎には見えないよう、羽織の下でズボンを強く握りしめて、おめでとうと笑った。
「宇髄さんから、婚約したって聞いたの。相手の人も凄く綺麗な人なんだって。家柄も良くて、料理もできて……何でも出来るんだって」
錆兎と一緒だね、お似合いの2人だね。そう祝福しているAの顔は隠れて見えない。ただ、本当に嬉しそうにしているものだから、彼女は心の底から錆兎の婚約を祝っているのではないかと考えてしまうだろう。
彼女は氷の呼吸の使い手。今はただ固く、己の心を凍て付かす。そんなことは造作もない。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時