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参 待つ話 ページ3

数え切れないほどの鬼を斬ったからか、錆兎の刀には刃毀れが見られる。
本来ならばすぐにでも研ぐなり刃を変えるなりする必要があるのだが、今夜をやり過ごすだけならば保つだろうと青年は考えていた。

「……行くの?」
「ああ。お前は義勇を頼む」

鞘から刀を抜く錆兎に、少女は声をかける。
日が暮れる度にするそのやり取り。いつもは友人のことを頼むと、そのまま山の奥へ行ってしまう錆兎だが、この時だけ、錆兎は少女へ振り返る。

「そんな顔をするな。必ず生きて帰る」

錆兎の言葉に、少女は喉まで出かかった言葉をグッと飲みこむと、うん、とだけ答えて笑った。
命が危ういのはどちらも同じだが、少女の側には、錆兎に助けられた人たちがいた。そして、錆兎には劣るものの、少女も水の呼吸の使い手だ。選別に出てくる程度の鬼に遅れはとらない。
それでも、錆兎は少女を戦わせない。

「……義勇と待ってるから」

森の闇に消えていく背中に、届かないと分かっていながら、少女は声をかける。
だがその声は、風に乗って錆兎に届いていた。

最終選別のために捕らえられる鬼は、不謹慎な言い方になるが、人を1人か2人喰らった程度の鬼だ。基本、鬼の強さは人を喰らった数に依存するため、最終選別の鬼のほとんどは、鬼の中でも最弱だ。それでも、人を脅かすには充分すぎるほどの力を有するが。

「た、助けてくれー!」

山の奥からの悲鳴に、錆兎は地面を蹴る。
まさに今、鬼に喰われようとする男を救おうと、錆兎は空中で体にひねり、鬼の手を斬り落とす。
尻餅をつく男を守るように前に立ち、錆兎は目の前の鬼を見据える。
無数の手が巻きついたような異形の鬼は、錆兎が頭に付けた狐のお面を目にすると、縦に裂けた黄色い双眸を三日月のようにして不気味に笑う。

「やっと来たか。俺の可愛い狐が」

錆兎は決して鬼から視線は外さず、背後で、恐怖で体が竦んでいる男に声をかける。

「ここは俺が食い止める。お前はこのまま東へ行け。そこに俺の仲間がいるはずだ」
「で、でもそれじゃあキミが……!」

男が言い終わるよりも先に、鬼の手が伸びる。
抹茶色というには黄ばんだ、緑というには生々しい色をしたソレは、1本や2本ではない。4本の腕がはやぶさのように錆兎たちに降りかかる。

「走れ!」

錆兎は腕の雨を素早く斬りつけ、男に叫ぶ。
最後に、すまないと声を震わせると、男は錆兎に言われた通り、東に向かう。
ソレを確認した錆兎は、鬼に向かって地を蹴った。

肆 負ける話→←弐 修行の話



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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時

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