壱ノ漆 赫灼と大岩 ページ15
錆兎が炭治郎に稽古をつけ始めて半年、錆兎はその日、木刀ではなく真剣を持って現れた。それでも、炭治郎に臆した様子は全くなく、むしろ真っ直ぐに相手の目を見据えていた。
「やっと……男の顔になったな」
お面の下で楽しそうに呟く錆兎に、Aは素直じゃないなぁ、と苦笑を漏らす。もっとはっきりと、お前ならもう大丈夫だと、声をかければいいのに。
「今日こそ勝つ！」
もう、この少年は下を向いてなどいない。後ろを見ずに、前に進むことだけを考えて、目の前に困難があったとしても、この少年なら、もう大丈夫。
音のないゴングが鳴り響き、互いに前へと踏み込んだ。いつもなら、錆兎が先に炭治郎を突く。転んでも後ずらししても、進め！と声をかけながら。
その日初めて、炭治郎の刃が錆兎に届いた。
ししおどしが落ちるのとよく似た、耳に心地よい音を耳にして、落ちた狐のお面で隠されていた、錆兎の素顔が露わになる。
一瞬だけ驚いたように目を見開いた錆兎だが、その雪色の透き通るような双眸を細めて、口元に弦を描いて微笑んだ。安心したように、哀しそうに。
「よくやった」
鬼殺隊の錆兎。彼を知らないものはない。柱でこそないものの、その実力は折り紙つきだ。
そんな彼に稽古をつけてもらいたい、という鬼殺の剣士は山ほどいた。来るもの拒まず去る者追わずの彼は、嫌な顔１つせず彼らに稽古をつけた。だが、彼の稽古についてこれた者はいない。
だが、目の前の少年はどうか？才能がなかろうと、前に進めなかろうと、彼に食らいついてきた竈門 炭治郎という男は。
「炭治郎」
己がまだ、最終選別に向かう前の記憶を脳裏に、錆兎は炭治郎の肩を叩いた。ここで抱きしめてやれでもすれば良いのだろうに、それをしないのはただ照れているだけなのか、それとも何か意図があってなのかは彼だけが知るところ。
「"俺"を超えていけ」
そう言い残して、錆兎は炭治郎の隣を通り過ぎていく。すると、まるで見計らったかのように、山の霧が一段と濃くなり、錆兎とAの姿を隠す。
何か言おうと炭治郎が振り返ると、そこに錆兎たちの姿はなく、呆然と立ち尽くす師の姿があった。
「良かったの？労いの言葉の１つもかけなくて」
師と弟弟子のやり取りを遠くで見守りながら、Aは隣で木の枝に腰掛ける錆兎に問いかける。
「そういうのは、鱗滝さんの方が適当な言葉をかけてくれるだろう。俺は刀で語るしかできない」
本当は嬉しいだろうに、とAは苦笑をした。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます！こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります！ (2019年8月3日 17時) (
レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます！更新頑張ります！ (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo！！！))ついに来ましたね、続編！！更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます！夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます！ (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：squid | 作成日時：2019年6月1日 20時
