壱 歩く話 ページ1
私には幼馴染がいた。
親同士の仲も良く、随分と親しくさせてもらっている。同い年くらいの子が周りにいなかったから、というのもあったのかもしれない。
ただ、周りからは良い目では見られなかった。
その人は男で、私は女。近所の人が、私を女狐と言っているのを聞いたときは、そんなつもりでいたわけじゃないのにと、強い怒りを覚えた。
私のやることを褒めることこそしないけど、批判だけはするんだね、と。
「コイツのことを何も知らない奴が、コイツを悪く言う資格も権利もない!」
女狐と私を罵る子供から守ってくれたのも、彼だった。向けられた背中は大人よりも小さいはずなのに、誰よりも信頼できる、大きな背中だった。
両親の前では我慢していた痛みも、彼だけが気付いてくれていた。
憧れていた。彼の背中に、人柄に。
いつか私も、こんな風に誰かを守れる人になりたいと思った。
けれどある日、私は全てを奪われた。
全ての元凶を、鬼。鬼は私の両親を喰らい、彼の家族をも喰らっていった。
一夜にして、私たちは全てをなくしてしまった。
そんな私たちを引き取ってくれたのは、鱗滝さんだった。私たちが望むなら、鬼を討つためだけに作られた組織、鬼殺隊になるために鍛えてくれると。
彼の返事は、早かった。自分たちのように、幸せを鬼に奪われる人たちを助けたいと、彼らしい理由で前に進んだ。
「お前はどうする?」
出来れば普通の生活を送ってほしいと、彼は珍しい宍色の髪を揺らして私に振り返る。
鬼とは無縁の生活、今まで通りの生活に。だけど、こんな世界を知ってしまってなお、のうのうと生きていられない。
何より、彼から離れたくはなかった。
彼は優しい。でもその優しさで死んでしまうんじゃないか、二度と戻ってこなくなるんじゃないかと不安で仕方がない。
「……私も行く」
その日から、握ったこともない刀を手にし、過酷としか言いようのない稽古の日々が続いた。
私たちとほぼ同じ時期に入門した同い年の青年、冨岡 義勇も加わったこともあってか、全てが苦痛というわけではなかった。
「あっ!」
「おい、引っ張るな!」
「義勇も手を離せ!」
修行の初日に、落とし穴に3人仲良く落ちたとき、顔を見合わせて声を上げて笑った。
そして、どうしたのか、と心配そうに様子を伺いに来た鱗滝さんに、真面目にやれ、と3人並んで正座をさせられ、5分ほどミッチリ怒られた。
そうして年月が流れ、鱗滝さんからの最後の稽古が言い渡された。
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squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!こちらこそ、面白いストーリーを提供していただきありがとうございます。頑張ります! (2019年8月3日 17時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
シンア - 続編頑張ってください!!お花見のストーリありがとうございます (2019年8月3日 17時) (レス) id: 35c1a3a4d0 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - りんごさん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2019年8月2日 22時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
りんご - foooooo!!!))ついに来ましたね、続編!!更新頑張ってください (2019年8月2日 21時) (レス) id: 65b8d779c9 (このIDを非表示/違反報告)
squid(プロフ) - シンアさん» コメントありがとうございます!夏に合わせて海に行ったりとかを考えていたのですが、お花見も良いですね。参考にします、ありがとうございます! (2019年8月1日 20時) (レス) id: bf945fda6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:squid | 作成日時:2019年6月1日 20時