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彼女はそれを運命と呼ぶ(承太郎/花京院) ページ3

「私ね、きっと彼と一緒になると思っていたのよ」

へえ、と垂れ流した相槌は少々無関心だろうか。ちょっと、ノリアキ何て拗ねられる。これでも先刻までやっていたゲームを放置して、彼女からの電話をとったくらいには興味を向けている。夢見心地なその口調は大人になっても尚、相変わらずだ。

彼女は結婚する。今も、幸福に輝く左手で毛先を遊んでいるのが目に浮かぶようである。それを真似して、僕も前髪を指に絡ませながら彼女の語りたがりの心を相手にする。

「彼はね、私の初めてだったの」

先程から登場している『彼』とは、過去の人である。その彼を、僕はよおく知っていて、何なら人生で一番の理解者だと言っても過言ではない人物だ。宿命と星を背負った偉大なその彼は、彼女の始めてであり彼女も同様に彼の始めてだった。

「だってね、彼は私に麺の啜り方を教えてくれたのよ」
「随分、色気のない話だな」
「食気はあるわ。何を想像したのよバカね」
「君の旦那さんに殴られるようなことではないさ」

そうだ。僕が思ったのは、彼女が彼と交際何ヶ月で唇を触れ合わせたとか、体を繋げたとか、そんな事ではなく、幾多とあるエピソードの中で君が駅前のラーメン屋に行ったことを誇らしげに話したことに、今頃アメリカにいる彼はどんな顔をしているのだろうって事だけ。多分、彼は知っているよ。君が結婚することなんてとっくに誰かから聞いているさ。彼はああ見えて、君にゾッコンで君の知らないところで頭を悩ませていた。世界最強の男は、一人の少女に淡い恋心を振り回していた何て、可愛い話じゃあないか。

「承太郎、元気かな」
「さあ。でも、送ったわよ。招待状」

少しいじめてやるつもりで、尋ねてみたのに、どうやら彼女の方が意地悪だったようだ。君のその声色が今や仇になって、どんな顔で言っているのか、想像もつかない。

「来てくれるかしら、彼」

僕が名前を出しても、頑なに彼女が『彼』と呼び続ける理由は僕が考えるより浅いのか。君の送った招待状が、彼を絶望させるのか再び心を焚き付けるのか。せめて心の傷は、運命で手を打てるくらいに。


***
2019.3.21.
加筆修正・タイトル変更

砂漠の異邦人(ジョルノ)→←兎に角、彼女が良い子供を産むことは確かだ。(メローネ)



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作者名:かめのこ | 作成日時:2019年3月9日 2時

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