虚言3(短編集) (ページ9)

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続ページ9

そして、先程まで旭の座っていた椅子に山﨑も座る
ギｯ、と椅子が軋んだ後、部屋はシンと静かになり

「あぁ、もう少しだったのになぁ…」

旭の温もりと香りだけが、山﨑の周りに広がった
それを感じながら、山﨑は自身の両頬を手で包み、恍惚とする

「くふふ、」

旭の細い指先に、玉のように、宝石のように血が溜まり、指を指を鮮やかに染める様、伝っていた
そんな光景を思い出し、山﨑は思わず笑みが漏れる

あまり大きな声を出してしまえば、外にいる人間に聞こえてしまうだろう
山﨑は自身の頬を包んでいた両手で、口を塞いだ

目元に寄せられるだけのシワが寄り、旭には恐怖とさえ感じていた笑顔が、山﨑の顔には浮かぶ

「はぁ…ダメだ、楽しくて仕方ない、」

山﨑は、旭の温もりも、香りも、血液や体液さえも、何かしらを常に、自身の体に取り込んでみたいとさえ思う

「怖がってたのも可愛かったなぁ…。と言うか、俺が舐めないなら、自分で舐めちゃうんだ」

まるで自分のことを人外だと思っていたような旭の震える瞳も
旭が躊躇しながらも口を開け、彼自身の手に付着する血液を舐めとるのも
指の間から彼の小さく濡れた舌がのぞく光景をも思い出し
山﨑はいても立ってもいられなくなる

「はぁ、早く会いたい、早く。でも、さっきもう、また明日って言っちゃった！でも、また明日会えるもんね」

自身の失態を思い出し、大きな声を出してしまう

旭の前では凛とした、優しい先輩で居ようとも
彼に見られていない場所で、彼のことを思う山﨑はまるで
玩具で遊ぶのが楽しくて仕方がない幼児のようで

また明日、旭に会えることを考え、それを楽しみに心を落ち着かせる
どうせ明日の朝、偶然会えなくても、彼の痕跡を辿り、山﨑は旭を見つけ出すだろう

「それでｯ、偶然を、装って、また、」

興奮のあまり、呼吸は浅くなり、山﨑は途切れ途切れ言葉を呟く

明日は彼とどんな会話をしようか
どう近づこうか

山﨑は脚を少しバタつかせながら、恋をする異常者のように、体の震えを止める為に、自分自身を抱きしめた。

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