虚言3(短編集) (ページ8)

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続ページ8

『そんなら、僕が自分で舐めますし…』

幸い、手が綺麗なままであったので、山﨑が見つめているうちに、指の付け根まで流れてしまっていた血を、旭は唇や舌で拭った
まだ彼は自身の顔を見ており、少し恥ずかしさはあったが
先ほど山﨑がした行動よりかはマシだろうと、旭は自身の傷口や、指を、唾液で消毒するかのように薄く濡らす
普段は感じない、血液の、鉄のような味を感じ、旭は顔を顰めた

「旭のだから、そうしたかっただけだよ」

まだその話について言及をするのか
なぜ自身の血液に対して、そんなにも欲があるのか

好きな人間であっても、血液を喜んで口に入れる人間はいないだろう
優しさを含ませてふわりと笑う彼が、何とも怖く、旭の目には映る

『おかしいですよ、おかしい』

旭は未だ消えない鉄の味を感じながら、人ではない考えを持ったような彼を、否定するように呟くと

「えー、悲しいなぁ、」

彼のお得意の表情なのだろうか
同情を誘うような悲しむ顔を旭に向ける

思えば、旭も先輩に対して
おかしい
なんて言葉を使うのは間違いだと気づき

『おかしいって言うたんは、取り消します…』

「そうだよね、おかしくないよね」

しっかりと訂正をすれば、彼の情緒は少し落ち着いたように思えた

『僕、もう出ますんで…お先失礼します、』

「うん、また明日ね」

いても立ってもいられなかった旭は、椅子から立ち上がり、彼に挨拶を告げる
メモを探していることも忘れ、足早に部屋を出た

山﨑も、逃げるように慌てて部屋を出る旭に
笑顔を崩さないまま、ひらひらと手を振った