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『今日、あり得ないくらい素直だね。なんかあったの』



口数の少ない彼が、旭に対して何かを懇願することは初めてに近かった



「今しかないと思っただけ」

『そう、』



彼とは無言でも心地よかったのに、今だけは気まずさを感じてしまう



『…もう戻ろ、シャワー浴びよ』



旭は田嶋にそう言いながらも
ただ彼の勇姿を見届け、汗ひとつかいていない自分自身が嫌になる



『手、砂だらけでしょ?汗もかいただろうし』



旭のその声に田嶋も、土がこびりついた自身の手のひらを見つめた

ブルペンで伝わった旭の熱はとっくに冷めていて
試合が終わった安心感だけで、ほんのりと田嶋の手が温まっている



『俺も後から行くから』

「うん」



旭がそういうと、田嶋は旭の方には振り向かず、いつものように室内へ足を運ぶ



『…俺もお前だけでいいよ』



きっと彼はシャワーに向かうことだけを考えている
どうせ自分自身の呟きは聞こえていないと
旭は本音を漏らす



自分自身の方が、彼に対して重い感情を抱えていたのではないか

旭は先ほどの田嶋のように背中を丸め、自分自身を抱きしめるように身を縮こませた
違った暖かさを感じる自分の背中を不器用に撫でる

旭は、どこにいても背筋を伸ばして前を見つめる彼の
自分に甘える時にだけ丸められる背中を撫でるのが好きだった



『大樹が良いよ。』



なぜ涙が込み上げてくるのだろうか
バレないように早くシャワー室に向かってしまおうと、旭はまだ柔軟剤の香りが残る綺麗なユニフォームで、自身の顔を拭った



『…離れてほしくない、』



旭は自分の髪を乱した後、無理に笑顔を作り、立ち上がる

涙が溢れないよう、大丈夫と自己暗示をかけながら、一歩を踏み出す

まっすぐ前を向き、ゆっくりと歩みを進める田嶋を
旭もゆっくりと、一定の距離を保ちながら追いかけた。





____

F64...female→←続



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設定タグ:プロ野球 , オリックス   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時

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