続 ページ4
そして、旭が一通り泣いた後にはまた
空間にいた人間は、小林以外居なくなっていて
ず、と鼻を啜った後、旭は小林の胸元から顔を上げる
「どう?落ち着いた?」
そう優しく聞く小林に、旭は
『…少し、』
と、鼻の詰まった声で答える
「泣きすぎや、」
小林は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった旭の顔を見、少し笑った後
「旭、見てみ」
小林は、旭のロッカーを指差す
物を置くことが嫌いな旭のロッカーは、今すぐにでも退団するのかと言うくらいに物がなかったが
旭が目を移した時には
彼の事情を知った人間が、水やら、ドリンクやら、菓子やらを、
供える様に置いて行っていた
『なんですか、これ…』
旭が呆然とし、それを見つめていると
「みんなお前のこと気ぃかけてんで」
小林は、彼が他のチームメイトにどれだけ愛されているのかを伝える
「喉乾いたやろ、それ飲んだら」
体の水分がどれだけ無くなっただろうか
小林は、旭の涙で冷たくなった自身の服を指先でつまんだ後、彼のロッカーに置かれている水を指差した
『…はい、いただきます』
旭もまた、素直に水を手に取り、力のなくなった手で懸命に蓋を開け、喉を潤した
後日、旭は連絡できる全ての先輩や同期、後輩に、自分のロッカーに水や菓子などを置いたか、連絡をする
置いていないと答える人間には、急に連絡をしたことを謝り
置いたと答える人間には、あんな姿を見せて申し訳ないと謝罪し、置いてくれたことに感謝をした
この行動にも、本当に彼は気を遣いすぎていると、あの日あの場にいなかった人間にさえも噂された
旭をあんなふうにさせたのは、甘やかしたのは、小林だけだろう
彼があの時、心が弱っていなかったら
ロッカールームに彼だけでなかったら
彼だけのロッカールームに向かったのが、自分でなかったら
『誠司さん、』と、
なんとも言えない表情で自信の目を見つめた旭を思い出す
全ての奇跡が重なり、彼を甘やかすことができたのを
あの時だけは、自分のものだけにできたことを
小林は、全てのタイミングの合致に感謝した。
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時