続 ページ29
『拗ねるなって…怒ってるわけじゃないよ、』
旭も自身の詰めるような言葉を少し反省しながら、彼の背中を撫でる
寡黙で聡明に見えながら、こんなにも考え込む脆弱な彼を、死ぬまで誰が守ってくれるのだろうか
『…田嶋はさぁ、恋人作らないの』
ふと頭に考えついた疑問を彼に投げかける
恋人をつくり、結婚してもいい年だけれども、田嶋にも旭にも、女っ気は何もなかった
「旭だけでいい」
『また悲観的になってるでしょ』
下を向いたままそう答える彼の言葉に、旭は少しため息をついた
『守ろうと思わなくていいんだよ』
彼は人に干渉することも距離の詰め方も不得意で、人を守ることが苦手なのだろうか
男だから、女性を守らなければいけない訳でもない
支え合っていけばいい話であって
『お前を守ってくれる女性もいる』
心配するなと答えても
「違う」
そう、一言で否定される
『お前なら絶対素敵な旦那さんになれると思うんだけど』
自分にばかり縋るのではなく、誰かと共に愛で結ばれ、死ぬまで添い遂げればいいではないかと
世間一般の考えを彼に告げた
『同じように、優しい女性に出会ってね』
「…黙って」
彼が時々否定をすることはあっても
旭自身の言葉を拒絶し、制することはなかった
『ごめん』
そんな彼の冷たい発言に、旭も謝ることしか許されなくなってしまう
「俺は…旭でいいんじゃない、諦めてるんじゃない」
彼が否定し続けることは珍しかったが、旭もそれを即座に受け入れるのが上手かった
「本当に、これは、本心で…旭が良い」
勇気を振り絞るようなそんな彼の言葉に、旭の思考は停止してしまうが、漠然とした頭で彼の考えている答えを出した
『あー…お前は、俺とずっとこうしてたいんだね』
田嶋は、自分自身の先のことなど何も考えていなかった
彼の性格上、将来を心配していると思ったけれども
旭と出会ってから、田嶋の考えていた将来への心配は悪い方向に薄れているようで
『俺に守られて、生きていきたいんだ』
正直、今日の試合でベンチ入りはしていたものの、旭は投げさせてもらうことすらできなかったほどの成績
彼の性格で正されている成績の方が、ブレることがない気もした
投手として、自分は相手よりも劣っているのに、自分よりも優秀な彼の弱みまでを背負い、慰めるなんて
プライドさえも壊されてしまいそうで
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時