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彼は見事失点を0に抑えたものの、今日も旭に慰めて欲しいことがあったようで

試合後、旭は1人ベンチに残り、片付けやゴミ拾い、忘れ物のチェックをしていた
それも終わり、一息ついている旭の隣に、田嶋もシャワーを浴びないままベンチに訪れ、何も言わずに座る



試合後、ユニフォームのままでただ旭の隣に来る田嶋が、自分に慰めて欲しいと言う意味があるのを、旭も理解していた



『なんで今日抑えたのに、俺に慰められようとこっち来るの』



慰めて欲しい意図は伝わっていたが、なぜかは旭には伝わっていなかった



『…使う?』



旭は少し田嶋の方に体を向け、自身の肩を軽く叩くと
田嶋も旭の方に体を向け、いつもみたく項垂れるように旭の肩に額を乗せた



『何も悪いプレーしてないよ』



誰が見ても、彼の投球は申し分なかった
フルカウントでヒヤヒヤさせられるのは、見ている方としてはたまらないが、抑えてくれたら観客でも誰でも、味方は歓喜で手を叩く

今回唯一ヤジを飛ばされるのは打たない野手か、それを組んだ監督の方で
けれども田嶋は、自分自身にできる全てを考え、それが達成できなければ自責の念を感じていた



「…もっと、態度を」

『態度?』



田嶋は細く息を吐いた後、ただ淡々と言葉を紡ぐ



「威勢とか見せてたら、後ろの人達を活気づけられたのかな」



彼のくぐもった声は、旭の肩から身体中に響く



『…お前が160kmでも出してたら、後ろの人間のやる気が出るってこと?』

「...うん、」



旭の推測に、田嶋は当たり前のように返事をする



『そんなこと考えてたら、負けるよ』



田嶋の脳内から、一刻も早くその考えを消さなければ、彼はどんどんと疲弊してしまう



『プロだからって、100を目指さないといけないわけじゃないの』



夢を見せ、憧れられる立場であれど、映画のように上手くは行かない
一人一人の人生があるのだから、自分が一番にならなければと思い詰める必要もない



『早いストレートもいいけど…安定した球速とか、変化球で相手惑わす方が向いてるよ。お前は』



顔を見ても簡単には読み取ることのできない彼の性格には、読み取ることのできない球種を繰り出す方が似合っていた



『だから、もうそんなこと考えなくていいよ』

「…うん、」



旭からの正論が刺さったのか、田嶋はさらに背中を丸め、旭の肩に自身の額を擦り付けるように押し付けた

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設定タグ:プロ野球 , オリックス   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時

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