Bs29...male ページ27
数名が居るブルペンに、球の捕球音だけが響いていた
田嶋を信頼した監督が彼にピッチャーを交代する
ブルペンで準備する彼の投球こそいつも通り良かったが、今現在点を取ることができず、試合は負けに向かっていた
調子の良い球を数球投げ、いざブルペンから移動しようとした時
彼の中では緊張があったのか、田嶋の目には力がなく、浅い呼吸を繰り返している
『田嶋ー』
ベンチ入りしていた同じく投手である旭は、ブルペンでそんな田嶋の様子を伺いながら、彼の視界に入るように移動し、名前を呼んだ
旭に名前を呼ばれると田嶋はすぐに振り向き、力のない目であるがまっすぐと、じっと旭の目を見つめる
同じ時期に入団し、ずっと一緒にいる間柄
彼の感情は表情にあまりはっきりと映らないけれども、旭には全てがわかっていた
彼が今緊張していることも十分にわかり切っていた
『左手出して』
そう言いながら旭が両手を差し出すと、田嶋も左手を彼の両手の上に置く
『手冷たぁ、』
自身の両手に乗せられた彼の手は、氷のように冷たかった
何球か投げ体は温まっているはずなのに、信じられないくらいに緊張で冷えた彼の手に驚き、旭は乾いた笑いが出てしまう
そんな冷たい彼の手を温まっている自身の両手で握り、願うように額に当てた
『田嶋ならね、大丈夫。俺が保証するよ』
気持ちを込めながらも、簡単にそう言って
額から手を離した
けれども彼の手は握ったままで
『抑えることだけ考えて。後ろも助けてくれるからさぁ』
いつものように柔らかな語尾でそう言い終わった頃には、田嶋の左手は旭の体温で、十分すぎるくらいに温まっていた
登場曲と共にマウンドに上がった田嶋は、いつも通りロジンを数回弄ぶ
そして軽く手を丸め、その中に息を吐いたあと
じっと、自身の左手を見つめていた
旭もまたそれをベンチからぼーっと眺めている
愛情でも友情でも何でもいい
彼が自分のかけたまじないでしっかりと投げてくれれば、それでよかった
『伝わったかなぁ、ちゃんと』
だが、そんな旭の思いも杞憂に変わる
旭の思いが通じたのか、田嶋は三振を取り続け、彼のストライクに観客は歓喜する
けれどもその後こちらの打線が繋がらず、逆転は無く、勝利を勝ち取ることはできなかった
田嶋はマウンドを降りた後もベンチの一番前に座り、まっすぐとグラウンド全体やマウンド、打席を見、試合を見守り続けていたのに
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時