虚言3(短編集) (ページ23)

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続ページ23

どこで何を間違えたのかわからないまま、旭は涙を流して仕舞いたかった

ここで涙を流せば、また話はややこしくなってしまいそうで

『部屋戻ります、から』

震える声がバレない様、彼に聞こえるほどの小さな声で言葉を発し、その場から去ろうとしても

「あかんよ」

獲物を逃さない捕食者の様に、廣岡は旭の腕を掴んだ

彼をそんな人間だとは思っていないが、旭は殴られることも覚悟していた

「泣いてんの？」

冷酷な彼に図星を突かれた旭は、もう泣くことを堪えることができない
恐怖と疑問が渦巻く思考は、旭に涙を流させるのに十分すぎた

『...廣岡さんが、だって、廣岡さんが、』

小さな子供の様に旭は、貴方のせいだと訴える

「うるさいなぁ」

けれども、廣岡の不機嫌そのものの声を浴びせられる

彼にバレないよう、何回も瞬きをしても、止めどなく込み上げる涙は溢れてしまう様で

いっそ彼に
お前のせいで泣いているのだとわからせてやろうと、彼の肩に顔をうずめた

けれども廣岡はそれを無視して旭の頸を撫で、髪を撫で、深く、ゆっくりと深呼吸をする
旭の肌や髪、体温、香りを堪能している廣岡の行動を、旭は気づいていなかった

触れられている感覚はあれど、不快さも心地よさもなく、彼の感覚は、思考に侵されていて
ただただ、疑問と不安しか考えることができず、涙も止まらなかった

廣岡の肩で暫く啜り泣く旭に廣岡も、彼が本当に泣いていることに気づいたのか
両手で彼の肩を掴み、顔を見るために自身の肩から引き剥がす

旭の身体は抵抗する元気もなく、簡単に引き剥がされるも
旭は顔を見せず、未だ下を向いている

旭の目線の先を見ても涙が落ちるだけで
廣岡は、旭の涙で床が濡れていくのを見ていた
そして、彼の頬を自身の両手で挟み、包むように持ち上げる

また旭の体は、廣岡の言う通りに顔が上げられ、幾度とない涙の線で頬が濡れる彼の顔を、廣岡は何も言わずにまじまじと見ていた

時々、廣岡は宥めるかの様に、親指の腹で旭の頬をさする

これは彼なりの慰めなのか、なんなのか

どうせ彼は、自身には何も労いの言葉もなく
優しい言葉もかけないだろうと旭は確信する

彼に"うるさい"と制されただけで泣いてしまう自分自身のことを、彼もまた
心底嫌いなのだろうと、自己嫌悪に浸っていた