続 ページ3
「俺、甘やかし方分からんけどさぁ、ええ子や、ええ子、旭は」
チームメイトを励ますことはあっても、子どものように甘やかしたことはない
けれども、目の前の彼を甘やかさなければという使命感から
小林は声のトーンを落とし、彼の今までの頑張りを認めるように、背中を優しく叩き、あやした
「しんどいなぁ、しんどかったなぁ、」
彼の低い声と落ちついた香り、抱擁感や暖かさを同時に感じ、涙脆い旭は、すぐに感情が決壊する
声を上げることもなく、静かに涙を流した
虫の鳴くような旭の声を聞き
「好きなだけ泣きや、俺のことも、周りも気にせんでええ」
いつ誰か入ってくるかも分からないが、そんなことは気にするなと、彼の泣き顔を隠すように、自身の胸に顔を埋める彼の肩に、小林もまた、顔を埋めた
他のチームメイトとは違い、童顔で小さな彼に甘えられると
まるで本当に子どもをあやしているかの様で
彼の欲しいものを何でも与えてしまいたくなる
彼の震える身体をまた、さするように宥めていると
何分経っただろうか
誰かの足音が聞こえた
ゆっくりと歩みを進めるそれは、小林と旭、二人きりのロッカールームに入る
旭を抱きしめながら、小林が入り口の方に顔を向けると
「お疲れー」
練習を終えた菅野と目が合った
だが彼もすぐに小林に抱きつく旭が目に入る
お前に抱きつく彼はどうしたのかと、旭には聞こえないように旭を指差し、小林にアイコンタクトを取ると
「…甘やかしてんねん」
小林は正直に、困った表情で笑いながら答えた
旭が我を忘れ、周りの声が聞こえなくなり、耳にも閉塞感を感じる程に泣いているうちに
ロッカールームには続々と選手が集まってくる
だがそれぞれ皆、小林に聞くよりも先に
事情を知った人間が、なぜ旭が小林に抱きついて、肩を震わせて泣いているのかを伝えた
流石に数人の選手がいる中で旭を甘やかすような言葉は声に出しづらいのか
小林はただひたすら彼の頭を撫で、背中を摩っていた
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時