虚言3(短編集) (ページ20)

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続ページ20

十数分前の自分の恥じらいを、旭は再び思い出してしまう
けれども旭のそんなエピソードはどうでも良く

「先輩として？」

旭の好きという言葉に、中川はしっかりと反応した

『え？』

「先輩として好きってこと？」

寂しさを感じる中川の呟きに旭は同情を誘われる
彼に対して自分自身が、先輩として以外の好意があると気づいていながらも
彼にそれを伝えるタイミングは今ではないし、伝える必要もないだろう

『…勿論』

少しの沈黙がありながらもそう答える旭を少し疑うが

「ふうん…じゃあ後輩の一番は山下でもええから」

せめて何かしらでは彼の1番になりたいと中川は思う

「先輩の一番は俺な」

『…はい、』

殆ど強制的な彼のその言葉に、旭も了承するしかなかった

「俺、まだ寒いんやけど」

言い終わると同時に、中川は旭の背中をふざけるように摩った
中川の胸に顔を埋めるのをやめていた旭は

『僕は、』

自分は十分暖かく、暑すぎるくらいだと
再び彼に身を抱き寄せられ、彼の胸に顔を埋めながら答えるけれど

「真っ赤っかやん」

彼にこんなに長く抱きしめられることも、自分の恋心をほんの少しだけでも自覚することもなかった旭は
今までとは違う感覚に、体が熱くなる
皮膚の薄い彼の肌は、冬の寒さなのか、体の火照りなのか、すぐに耳や頬を赤くさせた
そんな旭の正直な身体に、中川もそれを揶揄わずにはいられない

『圭太さんのせいですけど』

「俺のせいなぁ…」

少しムキになるように、中川に罪をなすりつけるが

「中であったまる？」

一つも悪びれることのない中川は
せっかく出勤した旭をまた室内へ連れ戻そうとする

けれども、着替えた意味も無くなってしまうと思った旭は
彼とキャッチボールでもしようかと

『そろそろ練習しましょ』

暖かさに甘えていても仕方がなく、まだ2人だけの暖かくむず痒い雰囲気を楽しみたい様子の中川を少し嗜める

「はぁい」

ほんの一瞬、上下関係というものが崩れながら彼との距離は縮まり、関係が濃密になりつつあると中川は感じていて

そばに置いていた自身のグローブを手に取り、嬉々として、旭とグラウンドに足を踏み入れた。

自身の先を広い歩幅でどんどんと進んでいく中川を見ても、旭は先程の嬉しさが消え去らない
その嬉しさは旭の脚に現れて、軽くスキップをしながら中川の歩幅に追いついた。

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