虚言3(短編集) (ページ15)

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続ページ15

けれど、旭はか弱い人間に対しての心の純度が高く、本当に泣いてしまったと思い込んでしまうような人間だった

旭は山下を慰めるように、山下の丸められた手をそっと握る
山下が腕の力を緩めると旭はその手を自身の額に持っていき、願うようにくっつける

山下は旭の心配するような顔をこの至近距離で見てしまいたいが、目を合わせては泣いていないのはバレてしまう

旭に顔が見えないように、旭に覆い被さるように抱きしめた

『あはは、なんも見えへん！』

けれども今の雰囲気を悪化させぬように、壊さぬように
明るく大きく、旭は腹の底から笑った

旭は山下の体の温もりと香りに包まれ、視界は真っ暗になり、服が自身の髪に擦れる音しか聞こえ無くなってしまう

『おっきい赤ちゃんやなぁ、どーしたん。しゅんぺーたくん』

けれど未だ何も言わず、赤子のように自身を抱きしめる山下を、旭は母親のように宥めていた
彼の大きい体格に圧倒されながらも、頑張って体幹を使い彼の体を支える
自分よりも身長が大きくても年齢は数個下で、やはり体が大きくなっても精神年齢はうんと小さいのだろうか

山下も旭が倒れないよう、抱きしめられながらもしっかりと抱きしめた

山下は旭の落ち着いた声が好きだった
年齢が彼より上であっても下であっても相手に対して
心配
という感情を出す時には
ぐっと声のトーンが下がり、掠れ、それは心地よく耳に入る
そんな旭の声を聞くたび、山下はとてつもない高揚感と背徳感に包まれた

『もう泣き止んだ？こっち向いて』

そう山下に言うと、彼は旭と目を合わせる
そろそろ山本に対してもほんの少しだけ、山下は罪悪感を感じていた
一部始終を宮城と雑談をしながらも見ていた山本は
これ以上この光景を見てみても誰も何も喜ばない
一番関係のない宮城だって気まずさしかしかないだろう

「宮城、行こ」

山下を呆れた目で見つめた後、この時間が一番無駄だと思い、練習に戻ろうと宮城に声をかける

「…行きましょ行きましょ」

宮城もまた、山本のその一言でこの空間から解放されると、山本に飼われている犬のように彼の肩を持ち、2人でグラウンドの隅まで歩いて行った

山下は泣いていないことがバレないよう、何回か自身の服の袖で目元を擦ると
まるで本当に泣いていたかのように、ほんの少し赤くなる
それは山下にとっては好都合で