虚言3(短編集) (ページ14)

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続ページ14

『山本君…後輩いじめたあかんやんか』

「まじで言ってない！」

後輩をいじめたという冤罪をかけられている山本に呆れるように、前髪をかきあげる仕草をする旭

いつもは"由伸"と気さくに呼ぶ旭が、"山本君"と少し戯けながらも自身を叱るような様子に
行き場のない感情をぶつけるアテもなく、腕を大きく動かし、大きな声を出して否定をする山本
あまり騒がしくないグラウンドに響く彼の大きな声は数人の意識を集めたけれども、またいつもの彼らがふざけているのかと、声の方に振り向いた人間は自分自身がしていた練習や作業、雑談に戻る

「でも違うとは言ったじゃないですかぁ、何回も…」

1人で焦る山本を放置し、山下は泣き真似をしてその場にしゃがみ込む
誰が見てもわざとらしいけれども、旭よりもうんと大きな彼がその短な眉を下げるだけで

『泣かんといてよ、』

両手を慌てふためかせながら、旭も少し駆け脚しで近寄り、山下の前にしゃがみ込む

「お前、何泣き真似してんねん！」

地団駄を踏んだあと、ちょっかいをかけるように山下の肩を拳で軽く殴る山本に

『あ！殴ったあかんよ！もう』

山本を見ることもなく、旭はそう言って山下を庇うように守った
あまり声を張り上げることのない旭の大きな声に、山本は自身が完全に悪者になってしまったと察する

「あー…最悪」

誰よりも背は大きくとも赤子のような面持ちをする山下に対し、赤子のように接する旭を
山本は今までに何回も見てきたようで

その光景に、また始まったと山本は呆れ果てる

そんな3人のそれぞれの行動に、宮城は何を言うにも間違いだと感じ、後ろで手を組んでいた
けれども心の中では、一部始終を同じように見ていた彼は、冤罪をかけられた山本の味方ではあった

「こいつ、嘘つきだ…」

策士である山下に対して殆ど声を出さずに呟く宮城のそれは、もちろん誰の耳にも届いていない
宮城は、この寸劇のような光景が早く終わらないかと待つばかりで
山下に振り回される旭にも、悪者にされる山本にも、同情の気持ちしかなかった

『痛いことはしたあかんの』

山下が自身の顔を覆うように丸められた拳にかかる前髪を、旭は優しく撫でる
指先だけであっても、旭の優しさは山下には十分に伝わった
繊細に動かされる指先は、山下の頭を優しく撫でるようで

『大丈夫？』

仲間内であれば、山下が本当に泣いてしまったと思う人間は絶対にいないだろう