続 ページ12
けれども今の数分間のどこに、彼女を嫌いになる要素があったのか
「大丈夫やけど」
嫌いになんてなっていないと否定するために、能見はそう答える
けれども彼女には聞こえていないのか
『嫌いにならないで、』
彼女は、自身の方向に顔が見えるように、崩れたように頬杖を付きつつも
誰に言うでもないような、呟くような枯れた声で、もう一度口に出す
「…嫌いになんか、ならへんよ」
能見には、懇願するように呟く彼女のことを叱る理由も、資格もなかった
まだ酒が飲める年齢になってから数年経ったくらいであるのに、酒豪でもない彼女は、自分が潰れない程度の容量を把握していないようで
これから彼女の酔いが覚めるまでそばにいようか
それとも身体を起こし、肩を抱いて店を出ようか
今日の記憶が彼女に残っていたとしても、どうせ恥ずかしく思うのは彼女だけだと
けれども、酔いが覚めるまでそばにいると言う事を理由に、丁寧にケアのされているような彼女の触り心地の良い髪に、手櫛を通した
「俺の中ではさぁ、ええ子でおってよ、ずっとな」
結局は彼も、自分の都合のいいように、彼女にそばにいて欲しかっただけで
少し体温が上がるだけで顔中を赤くさせ、アルコールが体を駆け巡っている今、彼女は首元までもが赤く熱っている
そんな彼女の様子を自分だけが見ていたいと感じる
「謝るんは俺のほうかもな」
謝る気なんてさらさらないような声色でそう言った後、能見は何分撫でたかもわからない旭の髪をとくのをやめ、とうの昔にぬるくなったビールを喉に流し込む
旭は、彼の優しい声色と手付きにどんどんと感情は脆くなっていって
なんの意識をしていなくとも、彼女の目からは自然に涙が溢れる
だが、自身は顔を伏せていて
どうせ自分の酔っている目を彼は見ていたのだろう
涙で濡れても同じだろうと旭は少し、何に対してかはわからずとも感謝をした
自身の髪を触るのをやめた彼の手の温もりが、旭は忘れられずにいた
これから一生忘れられないだろうなとも感じていた
このまま自分がここで寝こけて仕舞えば、彼は自分を抱えてくれるだろうか
そんな淡い期待を持ちながら、ふわふわとした心地よい感覚のまま、意識を飛ばした。
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作者名:過眠 | 作成日時:2024年1月10日 21時