68 . 夢、未来 ページ19
大貴side
「俺ね、歌手になりたいんだ。」
「か、かしゅ…」
「そう、歌手。シンガーソングライターってやつ?
歌を作って、人前で歌うの。
俺みたいに、障害のせいで生きにくさを感じてる人の背中を、少しでも押すことが出来たらなって。
山田に落ち着くって言って貰えた、この声でさ。」
初めて人に、自分の夢を語った。
しかもあの山田に。
叶えるまで言わないつもりだったんだけどな
物心着いた時にはもう、俺には山田しかいなかった
いつの日か、山田のために学校に行くようになって
山田のために、通院も続けて
なのに、それなのに見えなくなる時が来る
やっぱり、世の中不平等だよな
.
「山田は、夢とかあんの?」
「ゆ、ゆゆめ、か…あ、ああるよ。ぼ、僕はお医者さんになりたい。や、や薮先生みたいに、や、や優しい先生になって大ちゃんの病気を治したいんだ」
そんなこと…
「残念ながら俺の病気は治るものじゃないけど、
山田なら間違いなくいい先生になるよ」
「そっか…で、でもお話できない…から」
「薮先生の通院、続けてればきっと良くなるよ。」
「が、頑張ってみる」
だから一緒に頑張ろうな、山田
俺にもまだ希望はあるって、思わせて欲しい
.
.
たぶん、後にも先にも訪れない貴重な時間
夏も終わりに近づき、
夜に半袖では少し肌寒いこの季節
となりの茶色がかった髪が、潮風に揺られている
その奥に確かに見えた山田の顔は、とても美しかった
「や…や…ぁ…やっと、言えたぁ」
吃りながらも、ちゃんと話してくれた
「帰ろっか、」
俺たちは、確かに前に向かって歩き始めた
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作者名:朔 | 作成日時:2020年2月1日 23時