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Aside
ライブが終わり一息つき、さて帰ろうかと思い、裏に来た。表だと人が多くてタクシーが来づらいかと思って───他意はない。そしたら、裏口から彼に似た人が出てきたの。そんなわけないと思ったけど何故か本人だと直感が告げた。その時、悪魔が私に囁いた。
『追いかけちゃえよ』
ダメだと最初は思った。けれど、ひらりと彼のカバンから何かが滑り落ちた。思わず彼を目で追ったけど何も気づいてなんて居なくて慌ててその何かを拾い上げて手元にあった上着を羽織り、参戦服を隠すようにボタンを上から下まで付けて駆け寄った。
「……あの!」
すると彼が振り返る。────やっぱり、彼だった。先程までステージに立っていたのだと思うと一瞬気が遠のいたけど慌てて首を振り意識を留めて彼に手元のそれを差し出す。
「落し物です!」
彼は首を傾げたあと私の手元を見て目を見張った。
「うわっ、落ちてました?それ」
だから落し物だと言ってるだろ、といつもの私だったら言ってたかもしれない。でも、そんな余裕なんてなくてぶんぶんと首を縦に降った。
「これないと明日も困るところやったから助かりました」
そうふんわりとした口調で私の手元から彼の関係者パスがその手元に移る。
「……あー、ところでこれ。もしかしなくても見ました?」
これ、とは関係者パスのことだろう。今更嘘をつくことも出来ずに頷くとですよねぇと彼は半笑いを浮かべる。
「ご飯奢りで黙ってて貰えませんか?勿論高いところでも全然構わないので!」
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