青さんの短編集 jump × in (ページ10)

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今日こそ話そうと思っていたら

｢今日の撮影のペアは、伊野尾さんと薮さんで。｣

と言われたもんだから、
撮影前に誘って緊張で撮影に集中できなくなるよりも
撮影後の方がいいかと、先送りにした。

アイドルの雑誌は密着が多い。

｢薮くん！バックハグで。｣

ガチガチに震える伊野尾を包み込むと
カメラマンさんから、いいねーと声が上がった。

伊野尾は耳もうなじも真っ赤になっていて

不覚にも目に入ってしまう。

キスマーク…？

はっきりと濃く付けられた紅い印は
誰がどうみてもキスマークで。

撮影終了後、言えずにはいられなかった。

｢伊野尾！｣

ビクリと震える肩と、瞬時に赤くなる耳。

｢うなじのそれ、なんだよ。｣

何故かわからない。
無性にいらいらして、声が低くなる。

｢…薮には関係ねぇだろ。｣

再び背を向けて歩いていく。
また、彼の背中をぼーっと眺めるのか、と心が叫んでも
足は動かない。声は出ない。腕は伸びてくれない。

完全に背中が見えなくなった時、
やっと楽屋に向かって足が動き出した。

嫌なことって、重なるようになってるのかな。

｢知ってましたー？伊野尾慧って
最近、身体売り始めたらしいっすよ｣

スタッフさんの会話が耳に入る。
廊下で話すには大声で無防備すぎる会話。

伊野尾が…体を売る？

揺れた。なぜか
嫉妬で狂いそうになった。

楽屋に彼の姿はない。

…もう、行ったのか？あの街に。