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走り出した。きっと、きっとあの街だ。
運動不足の足はがくがくと震える。
筋肉は悲鳴をあげる。
それでも、走らなきゃいけない。行かなきゃいけない。
過去に伊野尾は身体を売っていた時があった。
毎晩毎晩、ぼろぼろになるまで
行為を重ねていて。
見ているだけでいるのが辛くて、痛々しくて、
泣きながら止めたあの日があったじゃないか。
なのに、何も気づかなかった。
彼は言った。
「あの日から…やぶのことが…好き」
あの日はあの日。
止めた日。お互いに思うことをぶつけた日。
走りながら見えた
男の人と並んで歩くきのこ頭。
「…伊野尾っ!」
思いっきり腕を引いて止める。
「…な、んで?」
どうしてここがわかったの?
どうして止めにきたの?
そう言いたげな目を見つめて言う。
「ダメだって言ったじゃねぇかよ。
…あの日に。」
お母さんに怒られた子供のような目で
しゅんと俯く。
周りの視線も隣の男も関係ない。
腕を引っ張って、そのまま抱きしめる。
びくびく肩を震わせて泣く君を慰めたい。
ただ温めてあげたい。
「…帰ろう。
帰ったらさ。この前の返事、遅れたけどさせてくれ。」
手を引いて歩く夜。
透き通った空気と、手から伝わる温もり。
今から君に伝えたい。
愛おしい君に___
伝えさせて Yb …fin
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作者名:しゃん。 | 作成日時:2018年3月28日 23時