391話:泣かないで ページ33
少し時間が経った。
赤く目を腫らした土蜘蛛は、
抱き締めた体勢のまま眠ってしまった。
日頃からあまり眠らない方だったから、
また何か考え事でもしていたんだろう。
貴方「変わらないわね…。」
土蜘蛛の頭を撫でる。
そうして、自分の寝ていた布団に
ゆっくりと寝かせる。
貴方「私の事…考えていてくれたら、嬉しいな…なんて。そんな事あるわけないよね。」
そう言って布団をかけて、
私は部屋を後にした。
家の構造に覚えがある。
土蜘蛛と大ガマ、オロチにキュウビ。
5人で暮らした家だ。
庭へ続く障子を開けると、
春の柔らかな日差しが部屋の中へと差し込む。
貴方「……」
緩やかに吹く風が、
私の長い髪を揺らした。
すると後ろから、声がした。
何かを落とす様な、そんな音がした後に
背に温かさを感じた。
気配で分かっていた。
でも、“今の私”はアナタを知らない。
「A…」と、弱々しく名を呼ばれる。
その妖怪の腕にそっと手を置き、
同じ質問をした。
貴方「アナタは…誰?」
優しく微笑むけど、
きっと君には見えていない。
声音だけを聞きとる君の戸惑う姿も
見ないふりをしてあげるから
どうか、泣かないで。
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:暁兔 x他1人 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年1月18日 0時