ときどきにわか雨／ぷろ ページ35
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『皇輝くん』
そう俺を呼んで微笑む彼女は今日も綺麗で、大人だった。
なだらかに上がる唇も当たり前のように絡められる指も、全部全部大好きだ。
だけどその度、不安になる。
ねえAちゃん。
俺でいいの？
大学生になって、まさか年上の彼女が出来るなんて思ってもいなかった。
だから沢山悩んで、何度も眠れないまま朝を迎えたけどそんなのどうだっていいよって言うみたいに、君は楽しそうだった。
まともにデートにすら誘えない俺に、そういうとこ嫌いじゃないよ、なんて。
また悪戯っぽく笑って俺の頭を撫でる。
そんな君に、きっと甘えてた。
『皇輝くん、今日先に寝てていいよ』
初めて見た赤いリップを塗りながら彼女が言う。
「……うん。なんかあるの？」
『地元の友達がたまたまこっち来てるみたいなの。久しぶりに会おってなってね』
嬉しそうに話す君に男？なんて聞けなかった。
もちろん行かないで、とも。
「そっか。楽しんでおいでね」
そうやって理解ある彼氏の振りをすることしか出来ない自分に心底嫌気が差す。
カーテンから漏れた夕日が念入りに巻かれた長い髪を照らした。
昨日の夜、ドライヤーを持った君がねだるから乾かしてあげたそれは今日の為だった？
考え過ぎるのは悪い癖だ。
行ってくるねって立ち上がった君に着いて玄関に向かう。
「行ってらっしゃい」
『うん』
パンプスに足を入れると、あ、と声を漏らしてこっちを振り向いた。
「なになんか忘れた？」
『うん危ない、わすれもの』
そう言って一瞬、唇に触れた熱。
『行ってきます！』
声を出す間もなくにっと笑った君がばたんとドアを閉めた。
やっぱり大人で、いつだって一枚上手で。
だけどそれだけでちょっとだけ、荒んでた気持ちが落ち着くから俺って単純なんだね。
そんなこと知らなかった。
君と出会ってからは予想外のことばかり。
巷で噂のラブソングとか、いまいちピンときたことなかったけどヒロインが君だと思うとどれも頷けて。
これまでの恋愛経験がすっぽり抜け落ちてる俺が君みたいな人に出会えたなんて、きっと奇跡なんだと思うよ。
だからさ、
もうちょっとだけ、一緒にいてみたりしない？
なんて。
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作者名：らら | 作成日時：2021年7月17日 13時
