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キスされた、と気が付いたのは数秒後。
ほんの一瞬。
でも確実に唇に触れた熱は翔馬のものだった。
我に返ると少し離れたところにあった華奢なあの背中。
そこに無理やり焦点を合わせた。
『っちょどういうつもり!?』
投げつけた言葉。
それに薄っぺらい身体がくるんと振り向いた。
「なにがぁー?」
『なにがって、今の!』
「えー?あー、」
上を向いて、考えるような素振り。
そして私を見つめるとふっと笑った。
「願掛け、?」
『は?』
「Aがちゃーんと30までに運命の人に出会えますようにーって」
『……いやいやいや、え?』
意味わかんないし出会えますように、なの?
キスしといて?おまじないとかはよく聞くけど願掛けって。神社か。私受験でもすんの?……まぁ受験生だけど。
「おれさ、Aが幸せじゃないのだけは許さないから」
この超絶温厚で有名なおれがだよ?
大抵のことは笑って忘れてあげるこのおれが!
なんて。
ぽやぽや喋るから本気なのかどうかもよく分からない。
『、はぁ』
「絶対いるから。Aのこと愛してくれるひと」
私のことをどう思ってるのか。
それを翔馬がはっきり口にすることはなかった。
だけどあのキスを簡単に忘れられるほど私も馬鹿じゃなくて。
安っぽい言葉で誤魔化されたあれは、時折私の身体を埋め尽くす。
夕陽が光って見えなかった翔馬の表情を、
それからずっとどこかで探していた。
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作者名:らら | 作成日時:2021年7月17日 13時