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気がつけば俺の下にいたA。
きょとんとした顔でじっと、ただ俺を見つめていた。
男、しかも仮にも弟に突然押し倒された癖に動揺する素振りすら見せなくて。
今日はずっと家にいたからすっぴんのはずなのに、あどけなく見えるだけで何なら普段よりも綺麗なこのひとが、俺は分からない。
「っなんなんだよ、」
ぐんと押した時に触れた華奢な肩の感覚が掌に残ったまま。
呟いた俺に、え…?なんてくるんと目を丸めた。
衝動に任せてやってしまったけどその先のことなんて考えてなくて。
でもこの状況、今更どうしようもなかった。
「…なんでフルネームなの」
今かよって感じだろうけど、口をついて出たのはずっと思っていたこと。
那須雄登、那須雄登って。
弟は普通に下の名前で呼ばれてるのに、いつまで経ったって何故か俺はフルネームのままだった。
『なんでって…那須雄登は那須雄登じゃん』
「お前も那須だろ」
『那須雄登を雄登くんって呼ぶヲタクなんか見たことないよ』
「なんでヲタク側にいんだよ」
だってヲタクだし…なんて納得いかない様子で口を尖らせるからキスしてやろうかと思ったけどそれは流石に辞めておいた。
こんな体勢まで持ってきておいて何だが生憎そこまでの勇気は持ち合わせてない。
その代わり、既に近かった距離を更に縮める。
少し、目が細められた。
「そうたくん、なのに?」
『っそれはさ、』
「弟の名前呼ぶだけでしょ?…ほら、呼びなよ」
雄登、って。
そうおでことおでこがくっつく程の距離で言えばふいと逸らされた瞳。
視界の端に映った赤く染まった耳に、やっとこのひとに勝てた気がした。
『うるさい、…ゆうと』
こちらを向かないまま放たれたそれに次に顔を赤くするのは俺の番。
…別に、名字でもいいと思ってた。
だって那須くん、って多分呼びやすいし。
彼女が出来ても名前で呼ばれなくていいって。
全部妄想だったけど、雑誌の取材で聞かれる度にそうやって答えてた。
なのに目の前で呼ばれた耳馴染みのないそれは真面目にアイドルだけをやってきた俺にとって軽い衝撃で。
突然やって来たかと思えば俺の世界を引っ掻き回して、全部をひっくり返したこのひとは
俺の姉だ。
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作者名:らら | 作成日時:2021年7月17日 13時