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当たり前じゃん、そんなこと。
今までがおかしかっただけ。
偶然が続いて、それを勝手にわたしが勘違いしてた。
分かってたはずなのに苦しくて、でも表情に出すことすら出来ないまま通り過ぎたそこ。
誰かの香水の香り。
何故かふっと静かになった騒がしいはずのその集団の真ん中。
「瑞稀、」
橋本くんの声が聞こえた。
「あの、!」
背後で聞こえた大好きな声に心臓が跳ねる。
何度も廊下で盗み聞きしたようなあの声じゃなくて、それよりももっと強ばった、緊張したような声。
怖くて振り向くことすら出来ないでいるわたしなんか置いてさっさとそっちを向いた彼女が、すっと絡んでいた腕を解いた。
『え、?』
「私トイレ行ってくるね!」
なんて。
行けないからわたしを呼んだんじゃないの?
そのまま小走りで消えていく彼女が前を向く直前、わたしの背後をくいっと顎で指した。
がんばれ、
そう零された口パク。
恐る恐る、振り返った。
瑞「白石さん、」
彼が、初めてわたしの名前を呼んだ。
固まる身体。
喉が自分のものじゃないみたいにきゅっと締まって使い物にならない。
いつか見かけたのと同じ、赤く染ったちいさな耳。
まん丸な瞳も、長過ぎない襟足も、柔らかいその声も、顔に似合わない高身長も。
わたしが恋する全てが目の前にある。
瑞「っ今日の放課後、時間ありますか」
わたしが抱えるわたしの全部が今、
一斉に震え出した気がした。
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作者名:らら | 作成日時:2021年7月17日 13時