０４． ページ4
.
「………A、遅いよ。心配してた。」
「へ…？あ、ごめんね。思ったより仕事残ってて、」
涙目で出迎えてくれる北斗。
ぎゅう、と苦しいほどに抱き締められる。
…なんだ、怒ってはいなかった。
.
.
そう思っていたのもつかの間。
「…本当に仕事？嘘かもしれない…。そんなの本当かどうかなんて分からない、俺には知ったこっちゃないよ！」
涙目で訴えていた子犬のような北斗はどこかへ消え、鬼の形相でこちらを睨みつける狂犬に変わっていた。
パニックになっているのか、独り言をぶつぶつ言っている。
もうこうなった北斗を私はどうすることもできない。
ただ、見てる事しかできないのだ。
「ねえ、北斗。」
声を掛けると腕を掴まれ、物凄い勢いでリビングのソファへと放り投げられる。
「…いたっ、……っやめて、よ！」
必死な抵抗も虚しく、あっという間に押し倒される体制に。
両腕は頭の上でがっちりと固定され、足を動かそうにも北斗が跨っているので身動きが取れない。
「…俺が、……俺がどんな気持ちで待ってたかわかる？Aの好きな物ばかり作って、Aのことを考えながらずっと待ってたのに…。……なんで分かってくれないんだよ！」
テーブルへ目を向けると私の好物ばかり並べられていた。
オムライス、クリームシチュー、アボカドと生ハムのサラダ。
「やっぱりAは俺のこと好きじゃないんだね。」
あ、やばい、───
途端、北斗の両手は私の首へ手をかけた。
しぬ、しぬ、殺される。
「ゔっ、……ぁ、…」
苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
徐々に絞められる強さも強くなっていく。
私は本当にこのまま死ぬんだろうか。
少し帰りが遅くなっただけで、この始末だ。
.
.
「………ごめん。」
すーっと、呼吸が軽くなった。
北斗が、手を離したから。
ごめん、と謝る北斗は申し訳なさそうに私を見ている。
大丈夫だよ、と声をかけようにも意識が朦朧としていて声が出せない。
又、北斗の顔が段々と近づいてくるや否や、首元をがぶっと噛まれた。それも結構な力である。
「…いっ、……」
「本当にごめんね、Aの事になると俺だめなんだ。自制が効かなくて。ごめんね、苦しかったね。痛いよね。」
ああ、ほら、まただ。
彼は私が好きなだけなんだ。
ただ、不器用で、本当の愛し方を忘れてしまってるだけだ。
私はそんな彼を、愛している、……のだろうか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 184人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みゅん | 作成日時：2022年11月27日 5時
