▽ ページ2
初めて光とあの場所で話したのは、中一の秋だった。
小さな丘の上にある名もない小さな公園。
遊具は、子供用の小さな赤いトンネル滑り台が一つ。
奥の方にはこれまた小さなベンチが一つ置いてあって、それを照らす外灯が一つ。
光はその小さなベンチにちょこんと座っていた。
背中を丸めて、鉛筆を手にしてノートに何か書いているみたいだった。
「・・・八乙女?」
俺の呼びかけに、光はハッと驚いたように顔を上げた。
そしてなんだか悪いことでもしていたみたいに、ノートを さっ!と背中に隠した。
「だっ…誰…?」
外灯の下にいた光からは、俺の顔がよく見えなかったらしい。
光の声はひどく怯えていた。
「ごめんごめん!薮っ!薮だよ、同じクラスの!ごめん、ビックリさせて…」
「あ、や、やぶ…なんで、こんなとこ…それ、ボール…?」
俺の手元を指さし、光は訊ねた。
「サッカーの練習したくて…どっかいいとこねぇかな〜ってフラフラしてたんだけど、ここ、良さそうだな、って思って。」
「あぁ…薮は…そっか、サッカー部だもんね…」
「うん、次の試合ぜってー出たいから!自主練!えらいっしょ!」
俺がそう言って笑うと、光はやっと少しだけ安心したように小さく微笑んだ。
「八乙女は?何してんの、こんなとこで。なんか書いてた?まさか勉強?」
「…なんでもっ…ない。」
光はそう言って背中に隠していた青いノートを慌てて胸にぎゅぅっと抱えた。
大切そうに、取られないように、ぎゅっと。
いや、俺…無理やり取って、見たりしねぇのになぁ…。
なんか少しだけ…傷ついた。別に、いいけど。
「何してたかは聞かねぇけどさ…ここじゃ書きにくくない?机もないし。家の方が落ち着くだろ?」
「・・・。」
「・・・?」
光は俺の質問に何も答えなかった。
表情一つ、目線さえ動かさなかったと思う。
だけど…それなのに。
不思議と泣いているみたいに見えた。
顔を歪めたわけでもない。ましてや涙を流したわけでもないのに、それでも泣いているみたいに見えた光の横顔。
俺はその後、結局なにか気の利いたことも言えず、なんだか気まずくて、サッカーボールを蹴った。
光は何にも言わずに、そんな俺をベンチからじっと見ていた。
141人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あかリ(プロフ) - Mさん» Mさん☆コメントありがとうございます!個人サイトの方にも行って下さってるんですね―!!嬉しいです!今回は本当にじれったくて本当に背中押してくださいって感じのお話だったと思います(笑)完結までお付き合いいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!! (2018年10月12日 11時) (レス) id: 02784cbe8e (このIDを非表示/違反報告)
あかリ(プロフ) - まやさん» まやりん〜☆ありがとう…地味に最後行き詰ったけど何とか完結出来て良かった…ホッ。いつも嬉しい感想を伝えてくれて、優しい言葉で私を元気づけてくれたまやりんのおかげだよ…(君は僕の薬箱さ〜(2回目))本当に本当にありがとう☆今後もよろしくお願いしますっ!! (2018年10月12日 11時) (レス) id: 02784cbe8e (このIDを非表示/違反報告)
あかリ(プロフ) - 無音さん» 無音さんーーー!占つくでは、なんだかとってもお久しぶりで不思議な感じです…(笑)あかリワールドなんて、とても嬉しいお言葉をありがとうございますっ!やぶひかがやぶひかしてれば、もうそれだけで最高っす!やっぶひか!やっぶひか!!(やぶひかわっしょい) (2018年10月12日 11時) (レス) id: 02784cbe8e (このIDを非表示/違反報告)
あかリ(プロフ) - とまとさん» とまとさん☆コメントありがとうございます!サイトの方も読んでくださって…ありがたいぃ( ;∀;)hksideすごく読みたいって言ってもらえて、とっても嬉しいです!非常にお調子者なので、そう言っていただけると書きたい欲がムクムク湧いてきますっ!(笑) (2018年10月12日 11時) (レス) id: 02784cbe8e (このIDを非表示/違反報告)
あかリ(プロフ) - ひかにゃんさん» ひかにゃんさん☆コメントありがとうございます!個人サイトの方にもわざわざ行って下さったんですね〜!嬉しいです(*^-^*)パスワード解けて良かったです!今後も色々楽しんでもらえたら嬉しいです!どうぞよろしくお願いします!! (2018年10月12日 11時) (レス) id: 02784cbe8e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あかリ | 作成日時:2018年9月4日 21時