文学少女と科学少年47 ページ47
科学倉庫へとゲンを運んでとりあえず寝かせる。
内蔵は一切傷ついてないのが不幸中の幸いであっても、顔や体は沢山殴られたのか痛々しい傷が沢山ある、不幸である事には変わりは無い。
こんな世界だ。傷口から細菌が少しでも入ってしまったら一環の終わり。消毒も気休め程度の物でしかないから。
早くも私は後悔の念に押される。
あの時千空の言葉に耳を貸さずにそのままゲンを追い掛けていたら...。もしも話など今更しても意味は無いことは分かっていても考えは止まらない。
震える手で傷口の手当をしていると腕を掴まれる。
相手はもちろん、千空だ。
「顔色が死ぬほど悪ぃ。看病する奴がそんなんでどうすんだよ」
コツン、とおでこに拳がぶつかる。
優しい拳だった。
途端に泣きそうになる。分かってる、今一番優先すべき事は、本当は心の底で分かってるよ。
でも怖い、目の前で人が衰弱していくのが。
自分の力ではどうにもならないと分かった時が。
怖くて堪らない、どうしようもなく。
千空は凄い、今一番やるべきことを誰よりも早く理解して誰よりも早く解決策を導く。
だから時々、自分のダメさが際立ってしんどくなる時もあるんだよ。
「A。取引忘れてんじゃねえよ、俺とお前は一心同体だ」
だからこそ、優しさの塊のような彼に私は応えたい。
目尻に溜まった涙を拭い、私は意志を固めて千空向き直る。
『忘れるわけない、絶対』
そう言うと千空は満足そうに笑って私の隣に座る。
すると蚊の鳴くような声がゲンから発せられるのに気付いた私と千空はゲンに耳を傾ける。
「このストーンワールドで、作れる？千空ちゃん…コーラを一本...」
「ああ作れる。俺ならな！」
千空がそう言うと私はゲンがこちら側につくことを確信した。あさぎりゲンは、私達の仲間になる。
何ともコーラなんて言う薄っぺらさにも程がある同盟だけれども。
でもそれが、逆に彼ららしくて良いのでは無いだろうか。
千空は人を見る目がある。
そんな千空がゲンと世界一薄っぺらい同盟を結んだのだ。
『コーラかぁ、作るの初めてかも』
「ククク、唆るじゃねえか。ストーンワールドで初めてコーラを飲んだ男にコイツはなれんだよ」
今日の夜は、落ち着かなくて寝れそうにもなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
