文学少女と科学少年46 ページ46
ゲンにまさかの指摘をされ、顔が熱くなるのを感じていると千空に科学倉庫の中へと呼ばれる。
先程のゲンの言葉がグルグルと頭を巡る。
猛烈な視線?いつの間に?私ってそんな無意識に千空に向けて分かりやすく目で追ってたの?
嘘...あーもう、ゲンの一言で千空の顔もろくに見えやしないじゃないか。
余計なことを、メンタリストめ...とちょっとした怒りを込めてゲンの方へ視線を送るとわざとらしく肩をすぼめて怖がるふりをした。本当にどこまでも軽い男だ。
「おい、A聞いてんのか?」
私が科学倉庫の外にいるゲンに気を取られていたからか千空に声を掛けられる。
あ、ダメだ。話に集中しないと。
『ご、めん。ゲンをどうするか、だっけ』
「ああ、『司!千空はちゃんと死んでた!Aも科学も何も知らないポンコツ!』って偽情報を流させる。俺らの勝利条件はそれしかねえ!」
そうと分かれば、と言うかのように外で待機しているゲンに向かってクロムがでかい声で科学の面白さを語る。
クロムは本物だ、千空にも負けないくらいの、科学のトリコになった少年。
そんな熱い語りかけにものらりくらりと笑ってかわすゲンはフラフラとどこかへ行ってしまった。
まさか、司王国へ戻る気ではなかろうか。
私の言葉も、千空の言葉も、クロムの言葉も、ゲンには何も響いてなくてそのまま司に私や千空の事を言ってしまったら...。
千空は、また____
頭の中には悪い妄想ばかりが膨らむ。今追いかけたらまだ間に合うかも。と身を乗り出そうとしたものの千空に止められる。
「どうせ今追いかけたって出来ることはありゃしねえんだ」
『そうだね、うん。そうだ』
こういう時こそ冷静な物の味方をせねば。主観ばかりに頼っていたら私はいつまで経っても千空中心で考えてしまうから。
深呼吸して落ち着こうとした瞬間、何か大きな音がして私達は確かめ合うように顔を見合せたあとその音の方へ走った。
やはり、というか予想以上に、出血が多い状態で発見されたゲンに一同は言葉を失う。
急いで脈を確認すると、一応生きてはいる。
しかしこんな出血量で、しかも槍が心臓を一突きしているのに脈がこんなにハッキリあるのはどうしてだろう、と不思議に思っていれば千空は彼の懐から血糊袋を大量に取り出した。
ゲンは骨の髄までマジシャンだったわけだ。
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作者名:うらら | 作成日時:2023年3月18日 20時