文学少女と科学少年44 ページ44
作業を続けている千空たちを横目にゲンは肩を竦めておどける。
「なーに言っちゃってんの。Aちゃんはジーマーで何もしてないでしょ?」
ヘラヘラと表情一つ変えないゲンにやはり違和感を覚える。そう、なんだろうけど。
ゲンは、そう見せているのだろうけど。
『...ゲンは、優しいね』
夕焼け色の空を眺めながら、でも視線は決してゲンから外さずに。
一秒でもこの人から目を離せば、もうこの笑顔の裏にある本当の顔が見えることが出来無い気がしてきた。
ダメだ。彼は味方になればこの上ないほどの戦力になる。こんな所でしか役に立てないのだから。
「Aちゃんだけには、言われたくないねぇ。俺は昔から俺自身を騙すことでしか生きられなかったからさ。だから真っ直ぐ、折れることを知らない大木のようなAちゃんに少しイラッとしたのよ、ホントはね」
「俺には今のところ大切なものなんて無いし、失ってもなんも思わないんだろうね」
そんなこと無いよ、なんて
言えなかった。
言えないよ。言えるわけない。
何とも言えない悲しさと、無情さと。旧現代で生きていた世界にもあまりにも違いすぎた私とゲンは、同じ目線からものを言うことは出来ない。
...こういう時、千空ならなんて言うかな。
ダメだな、私。ゲンは真っ直ぐで折れることの知らない大木、だなんて立派な喩えをしてもらったけれど私じゃ全然、大木になんてなれないよ。
すぐに千空だったら...千空は...なんて、千空基準でいつも物を考える。
でもそれって、科学を愛してる千空を見てるからで。
千空の横にいると、私も科学を失うのが怖くなってきたりして。
...あ、そうか。
『ゲン!作ればいいんだよ!大切なもの、私たちと!』
「へ?急にどうしたの」
思わず柄にもない大声を出したからかゲンが後ずさる。
う...主語がなかった、主語が。
『大切なものが無い、裏を返せば空っぽの宝箱の中にはまだたくさん大切なものをいれる事が出来る。これからは、千空の横で、たくさんの"大切"を入れていってほしい、ゲンの中に。
本当にただの私のエゴだけど、これ程までに素敵なものはないって、きっと思えるから...!私が保証する!』
早口で喋り続けてしまい、酸素が足りず息が上がってしまう。喋りすぎた...けどこれは私の本音であって。
千空の横に入れば嘘みたいに世界が広がって、色んな可能性を見せてくれる。
私にとって、千空はそこらの芸能人なんかよりよっぽど魅力的だから。
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作者名:うらら | 作成日時:2023年3月18日 20時