文学少女と科学少年5 ページ5
『別に、何でもないよ』
「…あのなぁA。お前が居ないと困るんだ、悩み事か？ストレスか？自分にしか分かんねえんだ、答えろ」
まさかそんなに心配されるとは思っていなかったので必死に誤魔化そうとするが、通用しないようだ。
でも千空が私が居ないと困ると言ったことが少し…ほんの少し嬉しかった。こんなこと言ってる場合でもないのだけれど。
コチラをじっと見てくる千空の視線が至る所に刺さる。
これだけでも心臓がドキドキしてくるなんてもうこれは末期だ。手遅れだ。
リンゴのように真っ赤に染まる頬なんか千空に見られたら、鋭い千空の事だ、きっと私の気持ちに気付くはずだ。
というかもう、気付いているものだと思ってたけど。
…とにかく、この話題から遠ざけなければ行けない。
『…トイレ！』
「誤魔化すの下手くそかよオイ」
『な…』
こうなりゃ強行突破かと思っていると、廊下から野次馬のような声が聞こえてくる。あぁ…大樹たち…。
「ククク…面白ぇ、高みの見物と行こうじゃねえか」
『…やっとかぁ』
とりあえず何とか千空の興味を大樹に逸らすことができ、一安心だ。私の心臓がもはや持たなくなってくる。
廊下に出て、自販機でお気に入りのエナジードリンクを二本買うと私の方へ投げてきた。
…エナジードリンクをあげるとはつくづく千空らしいがまた徹夜して実験する気だな。体に悪いから少しでも寝ろと言ったはずなのに。
もう一度ダメ元で忠告してみるか、と千空の方を見ればいつの間にか科学部員と賭け事をしていた。
『千空、エナジードリンク飲み過ぎ』
「へーへー。お優しいこったA様はよ」
『真面目に聞いてよ！千空がいないと生きて行けな…』
言ってしまって後悔する。
出てしまった、遂に、口からこんな恥ずかしい言葉。
慌てて誤魔化そうなんて出来ない。あまりにもストレートな言葉。
千空は目を見開いてコチラを何か言いたげな目で見ている。そうだ、千空にとって恋愛はウルトラ超面倒臭い事のはずだ。
「Aお前…」
千空が何かを言いかけた時、空が果てしなく緑に光る。
そして落ちた。
暗闇の中に。
神様は私のことが嫌いなのだろうか。
いや、本望なのかもしれない。
意識を手放す前に
彼と一緒にいられたのなら
本望だ。
＿＿＿＿＿＿永眠
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作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
