文学少女と科学少年34 ページ34
「まさか食事を作るのか？」
「科学関係ねえじゃねえか」
翌朝。
千空が作ると言い始めたのは食事だった。
...だとしても、この原料が限られている世界で一体何ができるのか。
科学に関係ない、という誤解を解く千空を横目で見ながら私はふと昨日の夜の出来事を思い出す。
あれは、あの日の夜空は、
今まで見た中で一番綺麗な空だったような気がする。
この世界で光が全くないからそれによって星が輝いているのか、それとも千空と一緒にいたからか...。
どちらにせよ、とても幸せな時間だった。
"ずっと前から月は綺麗だがな"
まさか、ね。
だってあんだけ文学的な言い回しを嫌って、言うならストレートに直接にタイプの千空が、あんな王道文学的な言い回し言うはずないもんね。
分かっていても...。
月が綺麗、に対してあの返しは、少し期待してしまうものだ。
あぁ、今は恋愛どころでは無いのにうつつを抜かしすぎているのは百も承知だ。しかし、不思議とやめられない。
「猫じゃらしがありゃ、作れっかもしんねえな！」
千空の大声に肩を震わせる。
突然なんだ、と思えばスイカの手に持っていた猫じゃらしで『世界一旨い料理』を作ると言い始めた。
世界一旨い...料理...。
あ、ラーメン。千空にとって世界一旨い料理なんて答えは簡単、ラーメンだ。
出会った頃からよく千空からは父親の白夜さんとラーメン屋に通いつめては美味しいラーメンを記録している、と楽しげに話してくれていたのを覚えている。
しかし猫じゃらしは一応穀物と言えど...現代のようなラーメンを作れるのか。
私の頭の記録上、そのような覚えは無いが脱穀したり揉んだりすれば行けるのかもしれないが一筋縄ではいかないだろう。
「A、ラーメンに必要な材料、旧現代の知識を全て記録しているてめえなら分かるだろ」
『分かるけれども...猫じゃらしとなると、もっと工夫がいるよ』
「ククク、その為のA大先生じゃねえか」
いつものように私の頭を軽く撫で自信たっぷりの顔で頼まれたら断れるわけない。
それを分かってて彼は私を頼っているのだ。本当にずるい男である。
...だけど、それがあってこそ千空だ。
『よし！まずは脱穀から始めよう、コハク、猫じゃらしをとりあえず...ざっと百本ほど採ってきてくれる？』
「百本だな！任せろ！」
考えろ、私のメモリーにしっかり焼き付けた記憶の棚から引っ張りだせ！
ご飯だって、科学なのだから＿＿＿＿
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作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
