文学少女と科学少年32 ページ32
夜も深くなり、ここの所動き続けていた為大きな欠伸をする。
皆も同じなのか釣られるように欠伸をしていた。
スイカはまだ小さいので早めに寝るように促した後、コハクと共に村の中へ入っていった。
クロムも疲れたのか一足早く化学倉庫へとヨロヨロと入っていった。
沈黙が私と千空の間に走る。
二人きりになることが久しぶりすぎて何を話せばいいか分からなくなる。
いや、恋を自覚したから？ほら、よく恋をしたら嫌われたくない一心で話す時に緊張してしまうって。
「俺らも寝るか。明日からまた忙しくなんぞ」
しばらく黙って座っていた千空だったがいきなり立ち上がって科学倉庫に歩いていった。
あ...そっか。
そうだよね。
千空にとって私はあくまでも記録係の文学大好き少女ってだけで、それ以下でもそれ以上でもないんだ。
なら私も...今ここで千空を困らせるよりかは気持ちに蓋をしてしまった方が良いのではないか。
...ほんとにそれでいいの？
いや、いい。今は千空にとっての助手的ポジションでいい。充分ではないか。
...恋をようやく自覚したのに？
千空は今恋だの愛だのに時間を費やす時間は無いのは私が一番よく知っている。だから自覚するだけ無駄なんだ。
...気持ちを押し殺して楽しい？
楽しくなんかないに決まってる。だって隣にいるだけで辛い。意識してしまう。でもそんなのどうやったって叶わないのにどうすればいいの。
...そのままぶつければいい。彼なら受け止めてくれることを、一番私がよく知っているでしょう？
ハッとする。
違うんだ、違う。そんなことは出会った時から分かっている。
ただ私は逃げてただけなんだ。傷つく事に怯えていて、自分を偽善者にした手上げて。
それは、それは気持ちに蓋をするなんて言わない。
彼の、千空の赤い瞳に映る私は強くありたい。千空にだって負けない、この石の世界での強さを持ちたい。
『…っ千空』
「あ？急に切羽詰ってどうした」
気付けば千空の手をとっていた。行かないで、たった五文字。これはワガママじゃない。気持ちを伝えるだけ。今の私の気持ちを少しでも知って欲しい。
『行かないで、もう少しここに座って空を見よう。今日は月が綺麗だから』
目を見開く彼に私は私の今の気持ちを大好きな文学と一緒に伝える。
今日は月が綺麗だ、満月の形をしている。
そう、綺麗なんだ。
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作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
