文学少女と化学少年25 ページ25
「おぅ、効くのかどうかも怪しいけどな。俺の体で試してイケてた奴だけ貯めてんだよ」
自分の体を使って未知の植物を試す...この世界じゃ食料問題やなんやらで命を落とすことも少なくないはずだ。
とても危険なこと...のはずなのに。
「ルリの奴の病気が治んならなんだって集めてやるぜ。俺はその為に妖術師になったんだ...！！」
『クロム...』
それって＿＿と言いかけて口を紡ぐ。
大切なんだ、ルリという人物のことが。
恋だ愛だとか、そういう言葉で片付けていいものではないほど、深く広いもなのだ。そんなこと私が一番よく分かっているはずなのに＿＿＿。
私も千空の為ならどんな事も厭わない、それが彼の役に立つのなら。
彼の合理性の上に私が居るなら、今はそれだけで満足だ。
クロムはとてつもなく真剣な顔をして私と千空に向き直る。
「千空、A。ルリの奴を救う妖術…カガクはねえのか！」
『私たちも医者では無いし、診ないと作らなきゃいけない薬も変わってくるから...』
「あぁ、その通りだ。とりあえず万能薬的なもんはあるが作んにはあらゆるブツが足りねぇ」
千空が少し考えた後、何を思い立ったのか3700年前にこの世界で一体何が起こったのか私に話せ、と指示した。
...一体なぜ急に。言葉で伝えるなら私の方が確かに説明力はあるがそれでも如何せんファンタジーのような話だ。
どうやって話しを進めるか。
少しずつ工夫を凝らしながらも出来るだけ分かりやすく、それでいて簡潔に説明する。
話終える頃にはクロムは溢れんばかりの涙を流していて千空が軽く引いていた。
でも、クロムが涙を流す理由もわかる気がする。
「誰だよその石化の犯人はよ、見つけたらブッ殺してやる！...悔しいじゃねーかよ。先輩人類たちが何百万年もかけてじわじわ作ってったそんなヤベーもんが！そんなヤベー科学文明が！！」
「一瞬でアッサリ全部消えちまったのが悔しくてしょうがねえんだよ...！！」
あぁ、そうだ。
文学だって、そうだ。
今まで数々の人達が文字で、紙で、言葉で残してきたものがこの数千年で全て塵になった。
跡形もなく無くなった。
私の人生の頂点にして原点だった文学が、もうこの世のどこにもない。
そう思えば一気に心の底が重くなった。
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作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
