文学少女と科学少年18 ページ18
千空の名前をこれでもかと言うくらい叫び、私は溢れんばかりの涙を流す。
嫌だ、うそ、なに、これ。
夢なら覚めてくれ。一刻も早く。
そうだ、ここのところ慣れないことばかりする、から。
だから、こんな変な夢を見るんだ...だから。だからさ
早く夢から覚めて、またいつものように微笑んで欲しい。
お願い、だから。
そんな虚しい願いも儚く散り、また涙を流す。
とたんに大樹の纏う空気が変わり、ある石を持つ。
そして私と杠にあることを伝えた。
千空の置き土産。
これを使わない手があってたまるか...！！
私は素早く千空を抱きかかえなるべく距離を置く。
それを見届けた大樹はなんの躊躇もなく上空へとその石、黄鉄鉱を司に向かって投げいる。
きっと司は予想もしなかっただろう。
まさか杠に投げられたものが
黒色火薬だということに。
「さらばだ、司......！！」
その途端に、先程の爆発音が再び鳴って爆風を受ける。大丈夫、司は死なない。逃げるための時間稼ぎに、黒色火薬を使っただけだ。
力持ちの大樹が素早く千空を抱き上げて、杠と私が荷物を持って走る。林の中を、木の間を、走って走って走り続ける。
ほんの僅かな時間だった。
あっという間の、でも、人生であれほどまでに長く感じた僅かな時間は無かった。
雨が降ってきた。
まるで私たちの心の内を表すかのように＿＿＿＿＿
「心臓マッサージ、やり方あってるのかもわからん！だがやるしかないんだ!!いや、人工呼吸か！？」
考えられる蘇生術を大樹が繰り返しやる。
「あぁ首は！動かさない方がいいかも!!さっき司くんが首を＿＿＿私のかわりに千空くんが犠牲になって...」
この世界では医療なんてあるわけない。
病気=死、とよく私に言っていたのは千空では無いか。
一番この世界について理解してたのは千空で、一番この世界で必要なのは千空だと言うことを、千空自身が一番理解していたはずだ。
なのに何故、殺させた。
呼吸が落ち着き始め考える余裕が出来始めた時には様々な疑問が頭に浮かんでいた。
そうだ、そうだそうだそうだ！！
まだ希望は捨てられないかもしれない。
あの合理的な千空が"犠牲"なんて気取ったことするわけない。
助ける時は全員助ける、それが彼だったはずだ。
なにか手がかりはないか...なにか！
『首＿＿＿うなじ＿＿＿これ、石化してる部分...？』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
