文学少女と科学少年13 ページ13
現在地は東京。ここから箱根まで80km弱。
「なんだ千空それは？」
「六分儀」
更に日の出からの秒数もサラりと言ってのける千空に一同が驚く、私もそれは例外でもない。3700年前までは当たり前のように存在していた道具でも現在ではそうはいかない。
いくら千空が凄腕と言っても木で作れる六分儀なんてたかが知れてる。大まかなものならともかく、正確な緯度経度は測れないだろう。
「いま鎌倉あたりか？正確な緯度経度が知りてえ...！」
『なにか目印になるところ...鎌倉...』
「鎌倉の目印、って言えば...」
恐らく全員が同じ事を考えていたのだと思う。気付いたら四人とも一斉に駆け出し、走れば走るほど減っていく大木にやはり、と確信する。
ようやくお目当ての目印を見つけた。
鎌倉の目印＿＿＿＿＿＿
「ククク、分かったぞ。現在地は北緯35度19分、東経139度32分だ...！」
3700年前とは少し形を変えながらも目の前に大きくそびえ立っている鎌倉大仏に目を奪われる。
こんなにも、美しかったのか。
右頬と右腕が無くなっているにも関わらず3700年前よりも綺麗に見える。
それと同時に、やはりもう私たちの知っている世界ではなくなってしまった事を跡付けるものとも捉えられた。
杠も何か思う事があったのかほろりと涙を流す。
「私まだ今日起きたばっかで、なんか全然...現実感ないっていうか、でもこの鎌倉の大仏...様、見たら」
「ホントに日本だったんだなあって、ホントに何千年もたっちゃったんだなあって、お母さんやお父さんや、みんなのこととか、急に...」
そうだ。ご最もの話だ。家族の話とか、起きたばかりの状況で精一杯で考える暇もなかったけれど今まで大事に育ててくれたこととか、そういうのを一度考えてしまえば、止まらなくなる。
千空や大樹は考えなかったのだろうか。
なんせ、二人はとても強い人だと知っている。でも心の内はどうなんだろうか。
私自身に涙が出ずとも、杠が泣いているのを見て心苦しくなった。
石化についてはまだまだ分からないことだらけだ。千空に大方説明はされたものの千空自身、分からないことだらけらしい。
目の前に相変わらず立っている鎌倉大仏を見上げる。
「いつまでもアホ面してんじゃねえよ」
頭の上にポンッと暖かい感触が伝わる。千空が頭を撫でてくれたのだ。
それだけで安心できる私はどこまで単純なのだろう。
あぁ、忘れかけていた。
この気持ちを。
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作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
