文学少女と科学少年 ページ1
『いつ読んでも面白いなぁ……』
ふぅ、と息を吐き図書館の机に突っ伏す中学一年生の私、如月A。
先程から読みふけっていた与謝野晶子の「みだれ髪」を読み終わり余韻に浸っているところだ。
やはり文学というもの奥が深い。
文学少女、と聞いて普通の人は文学をよく読むのだな、と思うくらいであろう。
しかし私は自分で言うのも何だがそういうレベルでは無い。
文学に出会ったのは小学四年生の時。
おばあちゃんの家の書斎にあったのが文学シリーズだった。
太宰治、夏目漱石、芥川龍之介、川端康成etc.....。
まだ学校ですら習っていたかどうかも怪しい年頃の時に私は目を奪われた。
中でも好きだったのは泉鏡花の「夜叉ヶ池」であった。
人間の妖怪の美しくも繊細な恋……恋をしたことがない私にとってこの作品は強く印象に残るものだった。
「生命のために恋は棄てない……か」
正直、何故ここまでして人を愛そうとするのかは分からない。
どれだけ天罰が下ろうと、邪魔されようと、愛し抜くという覚悟が、今の恋愛をしている人達にはあるのか。
私には分からないまま。
「そこ邪魔だ。見てえ本があんだよ」
私の図書館の机に大量に置かれたその文学本を見て邪魔だ、と言った人物を私は知っている。
同じクラスの石神千空。
彼は学年でも特に有名人であり、その噂の中には危険な実験や動物解剖といった、いかにも噂話のようなものが流れてくるので信用はしていない。
『ごめん、今どけるから』
今日はここまでか、と思いそそくさと片付けを始めていると何かハッとしたような表情をした彼が私の片付ける手を止めた。
「お前が噂の文学少女か。ククク、丁度いい。お前、俺と取引しようぜ」
喉元を震わせた変な笑い方、けど聞き心地は悪くない笑い方。
私は彼のペースにすっかり飲み込まれていたんだと思う。
「俺とお前が生涯死ぬまでの取引だ、唆るぜこれは」
妖美な笑みを浮かべて手を差し伸べる彼の目には私はどう映っているのか。
初めて人から見た自分という存在が気になる。
そうか。
私は石神千空という存在にこの時既に一目惚れしていたんだ。
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作者名：うらら | 作成日時：2023年3月18日 20時
