3.神様 ページ6
【A】
『変なひとだったなー。』
ふと漏れた呟きは、ヨコハマの賑やかな街並みに溶けて消えた。
川で溺れていたところを助けた蓬髪の男。
いや、彼曰く自分は入水の最中だったらしく、邪魔者扱いされてしまった。
変な人。
へんなひと。
『自分で自分を殺そうとするなんて・・・。』
きっと神様が見たら怒る。
バチが当たる。
『神様は、望んでいない・・・。』
呼吸が荒くなる。
目の前が霞む。
『どうして、どうして・・・?どうして神様のいうことを聞かないんだろう・・・。この世のすべてを決めるのは、神様だというのに・・・。』
自分の心臓の音が聞こえる。
額を汗が伝う。
変な人。
へんなひと。
可笑しい。
おかしい。
怖い。
こわい。
『神様に逆らったら、2度と許されない・・・。』
ザーッと耳障りな音が聞こえて、人が、街並みが、ぐにゃぐにゃと歪み始める。
『ハッ・・・、ハッ・・・。』
いやだ、いやだ、やだ、やだよ。
『許して、神様・・・。』
「どうしたの?」
どうしたの。
ドウシタノ。
目を開ける。
足に力を入れる。
視界がクリアになる。
ヨコハマの喧騒が戻ってくる。
「君だよ、君。具合悪いの?」
振り返って汗を拭う。
川で出会った人だった。
探るような笑顔。
でも、不思議と嫌悪感はない。
『あ・・・』
声を出してみる。
思った通り掠れていて、お爺ちゃんみたいだった。
でも、安堵が胸に広がる。
『だ、大丈夫・・・。』
微笑むと、ちょっと納得いかなそうな顔をして、俺の腕を掴んだ。
「ちっとも大丈夫じゃなさそうだ。おいで、私の職場には凄腕の医師がいるんだ。」
そうして、きたであろう道を俺を引っ張って戻って行く。
若干湿った包帯の感覚が腕に伝わり、その後に人間らしい暖かい体温がじわりと広がる。
変な人。
へんなひと。
『神様に背いたのに、許されてるんだ・・・。』
「ん?何か言ったかい?」
振り向く彼にゆるゆるとかぶりを振って、また引かれるがままに歩き出す。
ヨコハマを照らす午後の日差しは、さっきより暖かかった。
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作者名:ミチコ | 作成日時:2018年2月18日 11時