巡り会う妖と人の子１２

第５３３話〜親になったねずみ男と羽叶〜 ページ30

だがねずみ男の安心も束の間

赤ん坊は腕を右へ左へと回して湯船の中に巨大な渦を作り上げる

そして湯船から溢れ出したお湯は津波のようにねずみ男へと襲いかかり、脱衣所への扉もぶち破った

脱衣所でゆったり過ごしていた妖怪達諸共流してしまったのに対し、赤ん坊は呑気に風呂桶に乗って戻ってきた

ねずみ男は内心悲鳴をあげながら自分の服と赤ん坊を抱えて風呂屋から逃げていく

✱

すっかり月も上って暗くなった横丁

…の外れの森

流石にあそこまで騒動を起こしておいて堂々と居座れないが故に森へ逃げてきたのだ

ねずみ｢はぁ…疲れたぜ…

子守がこんなに大変なもんだったとは…もうこりごりだ｣

つかなんで今日に限ってAちゃん来ないのよ…とさり気なく愚痴を零しながら石を積み上げて遊ぶ赤ん坊を見つめる

自分と同じくらいの平らな岩を持ち上げて重ねると、嬉しそうに両腕を振った赤ん坊

ねずみ｢へっ…俺の苦労も知リもせず、無邪気なもんだぜ…｣

寒さに自分の体を抱きながら、誰に聞かせるでもない言葉をボソリと呟く

ねずみ｢だいたい妖怪の子なんだからよぉ、ほっぽり出したってそう簡単には死なねぇはずだろうが…

なんで俺がこんなに苦労しなきゃなんねぇんだ？｣

するといつも通り悪巧みを考える表情を浮かべてニヤリと笑った

(おっ、そうだ…鬼太郎達には親が迎えに来たって言っときゃいいや…)

抜き足差し足…と石遊びに夢中な赤ん坊からそろりそろりと離れていく

そしてしばらく離れたところで脳内ホイッスルと共に走り出した

(いっまだぁぁぁぁぁ！！！)

ねずみ男は120%の全速力で森を駆け抜け、森の出口まで走り抜けると足を止める

ねずみ｢はぁっ…はぁっ…

はぁ〜…ここまで来ればいいだろ…｣

｢びびび！｣

ギュンっ！！と効果音がつきそうなほど勢いよく背筋を伸ばして冷や汗をドッと浮かべたねずみ男

まさかまさかと思いつつ後ろを振り向くと、当然の如く赤ん坊がそこにいる

ねずみ｢うへぁっ！？

なんでぇぇぇぇえ！？｣

本日二度目の脳内ホイッスルと共にもう一度走り出したねずみ男

ねずみ｢来るなァァァァァァ！！｣

そんな叫びも虚しく、赤ん坊は土煙をあげてハイハイでねずみ男を追ってくる

なかなかシュールな絵面だが、ねずみ男は本気の本気で走っているのである

しかし遂には赤ん坊に追いつかれてその背に馬乗りされてしまった

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