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貴方.
『一希?』
「……俺な、またAが全然笑わへんくなっちゃったらどうしようって、怖かった」
一希の言葉に、ズキリと胸が痛む。
大好きな人にこんな顔させちゃうなんて……
私がまだまだ小さかった頃、似たようなことがあった。昔から無表情で暗かった私は、せめて明るくて華やかな趣味でも、として勧められたフィギュアスケートにどっぷりハマった。
一希がやってたから始めたのもあるけど、とにかく楽しくて……
勝ち負けはどうでも良かった。
だから、先生や振り付け師の人に何と言われても好きなように滑っていた。
……でも、勝つようになればマスコミは私を持て囃し始める。「天才少女」「第二の真央」そんな言葉は飽きるほど使われた。
私が真央ちゃんになれるわけないのに……
好き放題言われるようになり始めてから、スケートが嫌になった。無理矢理にでも笑う練習をした。
キスクラで、不自然な愛想笑いを貼り付けて、自分を偽って……それでも私に付けられた「笑わない天使」という悪名は、全国に広まった。
私の努力は、一体何だったんだろう。
……そう思い始めたとき、私は無理してまで笑うのをやめた。
じわりと滲む暑さに顔を顰めると、一希と繋いだ手に力を込める。
それに気が付いた一希も、足を止めた。
『……一希、夏、もう終わるね』
「……うん、」
『来シーズンも、もうすぐだね、』
「……」
『私、もう……前みたいにはならない』
「A、」
『あのときの私には、心の拠り所がなかったけど……今は一希がいてくれるから』
「だから、大丈夫」と、自分自身に言い聞かせるように、息を吐いた。
こんなにも私を想ってくれる人がいて、信頼できるコーチたちに、大切なライバルたち。
あの頃の私は、もうここにはいないよ……一希、安心して、私のこと見ててね。
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あお - 26話、「好きやねんやろ」よりも、「好きなんやろ」のほうがよいと思います。途中までしか読んでいないので、楽しんで続きを読ませていただきます (2019年1月5日 20時) (レス) id: 9b31bd131c (このIDを非表示/違反報告)
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