第伍話 ページ6
善「…獪岳」
善「修行もしないで呑気に何してやがる。其処の女と逢引か?」
獪岳と呼ばれた青年は眉根に皺を寄せ、善逸を睨みつけていた。
善「…何だよ」
獪「うだうだ喋ってんじゃねぇよ。俺は言ったよな?消えろって」
どうやらこの二人は仲が悪いらしい。険悪な雰囲気が漂う。この空気に居たたまれなくなった紅緒は、二人の間に割り込んだ。
獪岳を睨み付ける。
獪「…何か用か」
「悪言と悪意は口から吐いちゃ駄目。君の行く未来が穢れるよ」
獪「…ッチ」
獪岳は舌打ちを一つすると踵を返して面倒臭そうに戻って行った。
「やな奴、べーーっ!」
紅緒は獪岳が去った後、べっと舌を出して威嚇した。
善「あ、ありがとう紅緒ちゃん…」
「大丈夫だよ。善逸くん、あの獪岳って人と仲悪いの?」
善「まあ、ね…アイツ嫌味言ってくるし、すぐ殴ってくるし…ほんと散々だよ。でも、アイツ努力家だし、俺にないもの持ってる。尊敬はしてるんだ」
善逸は獪岳の去っていった方面を見ながら呟いた。
「…善逸くんは優しいね。それでいて強い。紅とは大違いだね。紅はね、正直さっき怖かった」
紅緒はそう言って善逸から顔を逸らした。
善「泣きそうにはならなかったの?俺は泣きそうになった…情けないけど…」
善逸は下を向いて自信なさげにする。
「でも堪えたんでしょ?善逸くんは十分強いよ!だって、
"泣くことはいけないこと"なんだから」
善「…え?」
その台詞に疑問を持った善逸がそれがどういうことか聞こうとした時にはもう紅緒はけん玉で遊んでいた。
善「(……楽しげな音の中に、悲しげな音がする…)」
善逸は紅緒を見ながら己の耳をさすった。
彼には目の前にいる紅緒がどこか自分たちと違うように感じた。
紅「どおしたの?遊ばないの?」
善「えっ?あ、うん!(一瞬、人間の音じゃなかった気が…)」
紅「ねぇ!今日はメンコを持ってきたんだ!やろうよ!」
紅緒は懐からメンコを取り出してニコニコと笑った。
不思議な子だ。
彼女のいったとおりに遊び出す。善逸は遊んでいるうちに彼女の笑顔を見て安堵感を感じた。
遊んでいると、段々と陽が落ちて来た。
彼女は立ち上がると街の方を見ながら呟いた。
「あ…もうこんな時間…爺様待ってるかな?」
善「じゃあ、そろそろ帰る?送ってくよ」
「紅一人で帰れるよ?」
善「や、送ってくよ。女の子一人じゃ心配だし……それに、まだ、紅緒ちゃんと話したいから」
善逸ははにかんで言った。
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キトラ - とても面白かったです。頑張ってください! (2019年8月16日 4時) (レス) id: 60abaaffa8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:文学少女 | 作成日時:2019年8月12日 23時