第三十六話 ページ46
目が覚めた。
胸の辺りが重く、苦しかったからだ。
無咎は寝起きの険しい目で、胸の辺りを見る。そこには胸を枕にすやすや眠るトゥナの姿があった。
起こさぬようゆっくり起き上がると、トゥナの頭を優しい手付きで撫でた。
范「…一人で寝れぬのか、お前は」
その口調は優しさに満ちていた。
頭痛も関節痛も、ましてや熱はない。
范「一度死んだ身だしな、獄卒ともなれば回復も早いだろうよ」
そっと立ち上がるが、怠さも何もない。取り敢えずトゥナを自身のベッドに寝かせ、水を飲みに外へ出る。
そういえば、そろそろ春節だったな。
などと考えながら食堂に向かう。
傭「あ、范無咎」
パーカーを身に纏わぬナワーブと鉢合わせした。
范「傭兵か、何をしている」
傭「腹減ったからパン貰ってきた帰り。お前は？」
范「水を飲みに」
傭「ふぅん。お前、大丈夫か？体調。あとトゥナ」
范「俺はもう完治したが、トゥナはまだだ。あの様子じゃ明後日くらいに治るだろうよ」
並行して歩く二人。ナワーブはパンを頬張りながら食堂まで付いてきた。
傭「そういや、エミリーセンセーが粥、作ってたぜ。トゥナに持ってってやれよ」
范「分かった。そういえば謝必安はどこにいる？」
傭「アイツ？アイツなら書庫にでもいんじゃねぇか？ゲーム無い日は大体アンタといるか読書してるかだから」
ナワーブはまたな〜と帰って行った。無咎は取り敢えず書庫に向かった。
そこにはちらほらハンターやサバイバーたちが居た。奥の席では必安が読書に更ける姿が見えた。
范「必安」
謝「！無咎、大丈夫ですか？体調の程は…」
范「完治した。トゥナはまだだから寝かせている。何をしていたんだ？」
謝「外つ国の文字の勉強です。今はいませんが、ヘレナさんに教鞭を執って貰っていました」
無咎は彼の隣に座ると、筆で書かれた文字を見た。もう五十枚ほどは書いている。
秀才め…と思いつつ、優れた義弟に誇りを抱いた。
謝「そういえば、トゥナさんは？まだ回復は見込めませんか？」
范「嗚呼。寝てる間に俺の寝床に入り込んで来たから取り敢えず俺が寝ていたベッドに寝かせてきた」
謝「そうでしたか。夜は熱が上がりますから、エミリー女史を読んだ方が良いですね」
必安はそう言って本を片付け、無咎と歩き出す。
謝「…ところで、無咎。貴方寝巻きのまま書庫に来たんですね…」
范「ああ、いちいち部屋に取りに行くのも億劫でな」
謝「はぁ…顔は良いんですがね…」
范「？」
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作者名：文学少女 | 作成日時：2019年2月4日 21時
