続き ページ42
范「俺は西洋の舞踏は…」
言い掛けて口を閉じる。踊れない、などと言ってしまったらトゥナは違う者をパートナーに選ぶだろうか？
「あ、そっか。東洋と西洋とじゃ、踊りは違うものね」
彼女はそう言って無咎の隣に立った。
范「他のパートナーと組まないのか？」
そう問うとトゥナはチラッと無咎を見上げるとニコリ、と歳に似つかわしくない妖艶な笑みを溢した。
「無咎は組んで欲しいの？」
范「ッ、たわけ…楽しみにしていただろう」
「！…そうだね、そうね。でも私、何をやるにも無咎と一緒が良いの。そっちの方が楽しいもの」
トゥナはそう呟くとシャンデリアの光を浴びて微笑んだ。
范「そう、か」
呟き返す無咎。
「でもワルツが終わるまで暇だねー…あ、無咎！」
こっちこっち、と手招きするトゥナ。無咎は不思議そうに近づく。
「見て！こんなにスイーツがあるよ！あ、苺のパイ！」←
范「応…」
無咎はなんとも気の抜けた顔をする。
先程の妖艶な笑みが嘘のように目の前のトゥナはもぐもぐとスイーツを頬張り、栗鼠の様に頬を膨らませていた。
色気より食い気。
今の彼女はこの言葉が似合うだろう。
すると、イライが近づいてきた。彼は月相の衣装に身を包んでいる。
占「おや？踊らないのかい？」
范「察せ。俺があんな亀の様に鈍い動きが出来ると思うか？」
ぶっきらぼうに答えるとイライは苦笑し「なるほどね」と呟いた。
隣に座ると3人で円になるような形で話し出す。
占「范無咎、君は酒は飲むかい？」
范「いや、遠慮する。悪酔いしそうだ」
3人は遠目に見えるワルツを楽しむメンバーを見ながら会話をし出す。
范「お前こそ踊らんのか」
占「ゲキウ…婚約者がいるからね」
范「そうか。賢明だな」
占「ありがとう。でも范無咎、折角だから踊りたまえよ。年頃の彼女は大いに喜ぶさ！ね、ワルツだけじゃあないのだから」
イライはニコニコと笑いながら告げる。
范「…この夜会で祖国の踊りをするとは思えん」
占「教えるよ、殆どの人はワルツなんて踊ったことはないのさ。みな、思い思いに踊っているだけさ。ナイエル嬢とデソルニエーズ伯爵は本物だけど」
イライはそう言ってフィナンシェをぱくん、と口に放り込んだ。
占「さて、トゥナさん。僕は彼にダンスを教えてくるから、ここで待っていて」
「え？でももうワルツは終わるよ？」
占「大丈夫。今じゃなくてもね。君は彼と踊りたいんだろう？」
イライはそう言って無咎を連れて行った。
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作者名：文学少女 | 作成日時：2019年2月4日 21時
